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01-01:トカゲもワニも

 両脇を森で挟まれた街道、冒険者姿のまだ10代と思われる少女の前に、3体のモンスターが立ちはだかった。


「聞いて驚け、見て嘆け」

「俺たちはここいらで恐れられる極悪モンスター」

「アリゲーターソルジャーの『三匹で斬る』たぁ、俺たちの事だぁ」


 代わる代わるしゃべる人型のトカゲモンスター『アリゲーターソルジャー』。人間なら大男と呼ばれるであろう巨体、胸当てを着け、それぞれ槍と剣と斧を構えている。

 武具を身に着けてはいるが、アリゲーターソルジャーの皮膚は鉄より硬く、大きな口は人間を鉄鎧ごと咬み千切る力がある。

 少女アリエルは一瞥するも、まるでモンスターに気付いてないかのように歩く速度を変えず、トコトコとモンスターの間を通りぬけていく。

 アリゲータソルジャー達もまさかノーリアクションで素通りされるとは思わず。自分たちの脇を通り抜ける少女を茫然と見過ごした。


「いやいやいや。ちょっと待って、少しくらいは驚いて立ち止まろう」


 アリゲータソルジャー達は慌てて少女を追い越し、再度少女の前に立ちはだかった。

 アリエルは歩みを止め、3体を一瞥すると癖のある金髪をかき上げた。


「ふぅ。ようやく話を聞く気になったようだな」


 汗を拭く素振りをしながら剣を持ってるアリゲータソルジャーが言った。


「よく見るとこのお嬢ちゃんの服装、身分が高そうじゃないか」


 アリエルを指さしながら、大きな口を開いてしゃべる。


「こいつはいい。高貴な人間ほど、肉が美味いって聞いたぜ」


 アリエルは自分の服装を見た。動きやすさを重視して防具は高級革製、下に着ている服は絹を使っている。肉が美味しいのかはわからない。


「道を譲ってくれませんか」


 アリエルは眉間にしわを寄せ迷惑そうに言った。

 アリゲータソルジャーは顔を見合わせる。


「急いでいるのかな、お嬢ちゃん」

「女の一人旅じゃなにかと物騒だろう、俺たちが一緒について行ってやるぜ」

「お礼はその身体ってことでいいからよ」


 楽しそうにしゃべる3体。

 この辺りのモンスターはおしゃべりが好きなのかな、それともこの3体が特別なのだろうか。時間をかけてかまってあげるほど暇じゃないんですけどねと思い、腰の剣に手をかける。


「おいおい、なんだ俺たちと戦おうってのか。女にしては度胸があるじゃねえか」


 そう言うと斧を持ったアリゲータソルジャーは近くには生えている木を薙ぎ払った。成人男性程の太さのある木が音を立てて倒れる。


「まてまて」と剣を持っているアリゲータソルジャーが手で制止する。


「こいつ女だと思ったが、男じゃねぇのか。ほら人間の女にしては胸がない」

「だあぁ、はっはっ」と3体が指をアリエルの胸辺りを指差し笑う。


 大人しくおしゃべりを聞いていたアリエルだったが、その一言は無視できなかった。


「言ってくれるじゃないですか。トカゲ風情が。人間と同じように2本足で歩けるから浮かれているみたいですね」


 そう言ってアリエルは剣を握るのをやめて、呪文の詠唱を始める。


「トカゲじゃねえ。俺たちゃあ、ワニだ」

「お嬢ちゃんは知らねえみたいだが、俺たちはこの界隈で何人もの冒険者を殺してきたんだ。この武器で何人もだ」


 そう言うと剣を持ったアリゲータソルジャーは自身の獲物をぎらつかせる。


「そして今まで冒険者に傷一つ付けられたことねえ。つまり俺たちは無敵って事だ、そう無敵のモンスター『三匹で斬る』たぁ――」


 アリゲータソルジャーが意気揚々と名乗るのを遮るように、アリエルは右手を3体の足元へ向かって突き出し魔法を発動させた。


暴風爆発(ストームバースト)


 手から生まれた荒狂う空気の塊は3体の足元に叩き込まれる。同時に風の塊が弾け爆音が轟き強風が辺りを駆け抜けた。


 立ち昇る煙の向こう空の彼方に、吹き飛ばされたアリゲータソルジャーが小さく確認できた。わずかに何か叫んでいるのが聞こえたがそのまま消えていった。


「トカゲもワニも同じようなものですよ」


 スカートの砂埃を払い。アリエルは目的地目指して歩き始めた。

 

 ◇◆◇◆◇


「ここはチュウカーンの港街だよ」


 壁に囲まれた街の門をくぐると、木陰に座っている男から声がした。ぼさぼさの頭に無精髭を生やし、薄汚れた服を着ている。

 どの街にでも居る『入り口の案内人』だ。

 アリエルは一瞬相手を見た後、無視して歩き出そうとしたが、逡巡して酔っ払いに近づくと「ちょっと聞きたい事があるんですけど」と声をかけた。

「んぁ?」と酒瓶を覗いてた男性は顔を上げる。酔っているようで顔が赤い。極力会話などしたくないタイプだが仕方ないと割り切る。


「この街に酒場はありますか?」

「あぁ、もちろんあるよ。ここは港街だからな船乗りが集まる大きな酒場と、この街の人間や冒険者なんかがあつまる小さな酒場があるんだけど」

「この街の住人が集まる方を教えて下さい」

「あの店はオレもよく行くんだ。きたねぇ店だけど酒は沢山置いてるし、メシはうめぇしなあ」


 話しかけられたのが嬉しいのか酔っ払いは饒舌だ。


「場所は何処でしょう?」

「この道を真っ直ぐ行って、教会がある十字路に出るからぁ、まぁこれもシケた教会だけどな。そこを左に曲がって歩いてりゃすぐに…」


 長話をしたそうだが遮らせてもらおう「ありがとごうざいます」と簡単に礼を言うと、まだ何か話したそうな酔っ払いを無視して歩き出した。後ろの方で「なんでぇ」と不貞腐れた声が聞こえた。

  

 案内人に教えられた道を行くと確かに教会があった。

 手前の十字路を曲がろうとして、教会の壁に描かれたレリーフに気付く。

 鎧を着た男が片膝をつき手を差し出し、髪の長い女性がその手に自分の手を重ねている。

 聖書に載っている有名な場面。アリエルが聖書で一番好きな場面。

 300年前。実在したと言われる勇者が旅立つとき、ハジマーリ国のお姫様に魔王討伐を誓った場面。

 アリエルは立ち止りそのレリーフをじっと見つめていたが、自身の目的を思い出し酒場へと向かった。

 

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