03-02:ほぅ、貴様があの
城門を出るとちょっとした広場がある。本来ならば出陣前の兵士を集める場所である。
「うわぁ、集まってますね」
イオがうわぁと言いたくなる気持ちも分かる。
そこには数十人の冒険者が集まっていた。
一目で分かる戦士風の男たちが大多数だが、よく見れば魔法使い、武闘家も数人いる。
そして屋外ではあるが、そこはかとなく獣臭のようなものが漂っている。
広場に正面には机が一脚とが置かれてている。スカルは机の横に立つと冒険者達に声をかけた。
「おはようございます」
しかし談笑をしたまま誰もスカルに注目する者などいない。
見習い兵士以下だな、とスカルはうんざりしながらイオに目配せをし頷く。
イオも頷き、近くにいた鎧姿の冒険者を蹴り上げた。
蹴られた冒険者はその後ろにいた冒険者を巻き込み、大きな音を立てながら転倒する。広場はしんとなり、皆がイオそして正面のスカルに注目した。
イオはスカルにこれでいいですねと視線を送り、スカルもそれに対して頷く。
確かに黙らせろという意味の目配せだったが、いきなり蹴とばすとは流石イオだな。
「皆さん張り紙を見て来ていると思います。任務の内容は港街までの警護です。私は指揮をとるスカル・スタンスローです。そこにいるのは副官のイオ・ピレーです」
紹介されると得意げに胸を張るイオ。
「昨今なぜが城の要人、富豪を狙ったようにモンスターが襲撃されることが増えています。今回もそういった襲撃に備えて皆さんに警護していただくわけですが――」
「能書きはいい。報酬はいくらもらえるんだ」
眼帯の男が声を上げると、そうだ金だという声があちこちで上がる。
スカルは多少うんざりしながら「イオ」と再度促す。
イオは腕まくりすると冒険者達に歩み寄り――。
「わあ、違う違います。殴って黙らせろって意味じゃありません」
キョトンとするイオに、自身の腰をコレコレと指差す。
イオは自身の腰に、先程渡された巻かれた紙があるのを思い出し、手に取り掲げた。
そこには冒険者歴10年以上の者と、10年未満の者の報酬額が書いてあった。そしてその金額は10年以上の場合は10年未満の100倍の額が書いてあった。
「10年未満はほとんどタダ働きじゃねえか」
「やってらんねえぜ」
報酬額をみて冒険者達がざわつく。当然だ。未熟な冒険者を排除するための報酬設定にしている。
「この10年以上というのはどうやって確認するんですか」
冒険者にしては小綺麗な格好をしている金髪の青年が手を挙げて質問してきた。
「自己申告で構いません」
そう言うスカルの言葉に「それじゃあこの場にいる全員が10年以上だぜ」と先程の眼帯が笑い、周りの連中もそうだと笑い出した。
「申告内容が怪しい人はイオと手合わせしてもらいます。もちろんイオには手加減するように伝えますが」
スカルはふっと笑い説明を続ける。
「加減なんて器用な事が出来る子じゃないですからね。まあ冒険者歴が10年以上あれば死ぬことはないと思います」
説明を終えると、イオがこれ見よがしに構えてみせる。
不満を言葉にしない冒険者達を確認し「それでは、こちらに並んで名前と年齢、冒険者歴を申告してください」そう言ってスカルは机に着いた。
◇◆◇◆◇
「なんでぇ、俺はこの稼業10年以上やってんだ、おめぇに何がわかるって言うんだ」
過度に肥満した肉体に、鉄の鎧を身に着けている男性冒険者が不満の声を上げた。
「ええ、ですからイオと手合わせをして、それを証明して下さい」
手合わせしなくてもスカルには分かっていた。
肥満男の防具は多少使い込んであるものの1年程度、仮に買い替えているとしても手入れの仕方や防具の選び方、どうみても熟練とは思えない。なによりその男は冒険者と言うには太りすぎていた。
案の定「はじめ」の合図をして直後に肥満男はイオの放った蹴りでゴロゴロと転がされた。転がされた先には、今も気絶している未熟な冒険者たちが山になっている。
これでイオに蹴り飛ばされたのは10人目である。
少し設定年数を上げすぎただろうか、しかし冒険者の戦闘職業の多くは戦士である。兵士と違い、数ばかりいても戦闘の邪魔になるだけ。
「次の人」
スカルは申告を促す。
こげ茶色の髪に髭面の男が前に出る。
「シャンゴ・マグナス33歳だ。まあ10年以上は冒険者やってるぜ」
男が名乗ると周りの冒険者達がざわつく。
「あのシャンゴ・マグナスか強いらしいな」
「竜殺しのシャンゴか」
「やべえぜ。奴には何人もの冒険者が潰されてるぞ」
どうやら名の売れた冒険者らしい。
胴回りを金属で補強した革の鎧。よく見れば革の継ぎ目も金属で補強してある。
腕や顔などいたるところに傷があり。服の上からでも上半身、下半身共に十分に筋肉がついているのが分かる。なるほど竜殺しというのは伊達じゃなさそうだ。
「合格です。竜殺しですか。その実力期待できそうですね」
「何なら今から実力見せてもいいんだぜ」
懐に手をいれるシャンゴ。何を取り出す気だ。一瞬スカルは身構える。
トンと、シャンゴは机の上に酒瓶を取り出した。
「ウチの実家で作ってる。蒸留酒『竜殺し』隊長さんもやるかい」
嬉しそうに笑うシャンゴ。
周りの冒険者はまたざわつく。
「でたぞ竜殺しだ」
「あれで何人もの冒険者が潰されたんだ」
全然なるほど竜殺しではなかった。
スカルは眉間を抑え「お酒は仕事中なので」と断り、「次の人」と言った。
長めの金髪を後ろに結んだ、長身の男が前にでた。先ほど確認方法を聞いてきた冒険者だ。
「ハイライン・クーパー28歳、11年冒険者をしています」
28歳、スカルと同じ年齢である。
そしてまたも周りの冒険者達がざわつく。
「稲妻のハイラインかよ」
「何度も死地を潜り抜けてるらしいぜ」
「不死身だって聞いたことあるぜ」
どうやら名の売れた冒険者らしい。
よく手入れされた革の鎧。金属の防具は身に着けていない。どうやら素早さを重視して装備を決めているようだ。
細身であるが決して痩せているわけではないのがよくわかる。なるほど稲妻の二つ名どおり、そのしなやかな四肢から高速の技を繰り出してきそうだ。
「合格です。稲妻の二つ名通りの仕事が期待できそうですね」
「それはつまり、私に7度目の落雷を期待しているということですか」
得意気に前髪をかきあげるハイライン。
周りの冒険者はまたざわつく。
「すでに6度落雷にあっているだと」
「俺は5度って噂聞いてたぜ。つまり最近も落雷にあったって事か。恐ろしい奴だ」
只の運の悪い人だった。いや6度の落雷で生きてるならむしろ運がいいのかもしれない。
スカルは眉間を抑え「まあ、できれば近くに居るとき落雷は遠慮したいですね」と断り、「次の人」と言った。
ガラガラガラと荷車を押した少女が前にでる。少し癖のある金髪に整った顔立ち。冒険者にはとうてい見えない身なり。荷車にはモヒカンの男性が横たわっている。
「ボンクラ様と私は付き添いのアリエルです。10年以上よゆーで冒険者してます」
周りを見るアリエル。
他の冒険者たちは特に何も言わない。
「魔王殺しの勇者ボンクラと、放浪の王女アリエルです」
言い直すアリエル。
やはり他の冒険者たちは特に何も言わない。
「随分大層な二つ名ですが、その荷車の男は何ですか」
「魔王殺しの勇者ボンクラです」
少女が答える。
「いえ、何故荷車に乗ってるんですか」
「魔王幹部との死闘の末、呪いを受けたからです。ねえボンクラ様」
魔王やらお姫様やら、なんともまあ随分妄想の激しい少女だ。
荷車の男が小声で「筋肉痛だっての」と答える。
「何言ってるんですか、戦闘したの4日前じゃないですか。何でずっと筋肉痛が続いてるんですか。きっと呪いで身体が動かないんですよ」
魔王云々はさておき、このモヒカンが戦闘をして筋肉痛になっているのは間違いないようだ。しかし筋肉痛になるということは普段戦闘をしていないという事実を示している。
「ではイオと手合わせしてください」
アリエルは頷くと、ボンクラを無理矢理立たせようとする。
イタタタタと声を出しながら、糸が切れたマリオネットのようにアリエルに立たせてもらい、剣を杖代わりにして、ようやくイオと対峙するボンクラ。
老人のようだなとスカルは思った。
「イイんすか隊長」
さすがのイオも、躊躇っている。
「全力でお相手してさしあげなさい」
イオは頷くとボンクラに向かって構えた。
「はじめ!」
一気に間合いを詰めたイオが、これまでと同じように回し蹴りを繰り出す。
ボンクラの顔面に直撃すると思われた蹴りは空を切った。
続けざまに、後ろ回し蹴りでボンクラの腹部を狙うも、これもかわされる。
さらに間合いを詰め、顔面への拳、胸部への掌底を繰り出すもことごとくかわされる。
「その程度の攻撃、この魔王殺しの勇者ボンクラには通用しないんだぜ」
喋ったのは、ボンクラの後ろに居るアリエルだった。
先ほどから、襟元や腰のベルトをひっぱりアリエルがボンクラを操作している。
当のボンクラは無理矢理身体を動かされた為か、ぐったりとしていた。
「くっ」
イオは悔しそうに再度攻撃しようと拳を握る。
「そこまで。ボンクラとアリエル合格です」
イオと立ち会いをして初めての合格に周りの冒険者から「おお」と軽い歓声があがる。
イオは不満げにこちらを見てくる。
気持ちは分かるが、十分戦力になるのは確認できた。モヒカンの方はともかく少女の方は恐ろしく強い。他人を操作してイオの攻撃をかわすなど並みの冒険者以上だ。何より動作の一つ一つがまるで長年訓練された兵士のように洗練されている。
「ふっふっふっ、魔王殺しの実力思い知ったか」
未だボンクラを操作しながらアリエルが言った。
その後も何人かイオと手合わせをして、10年未満として選別したものは全員辞退し、結果15名を警護として雇う事になった。何人か10年の経歴が怪しいものもいるが、最低15人はザール氏の要望だ致し方ないだろう。
「それでは明日の朝の鐘が鳴る前に西門へ集まってください」
それだけ言い渡し解散とした。
冒険者達の去った広場で、スカルは机に突っ伏せる。
「お疲れ様です」
イオが声を掛けて来た。
「本当に疲れました。兵士達相手とは違い、イレギュラーが多すぎます」
「どうするっすか」
「どうするも何も、今日の合格者で護衛をするしかありませんよ」
「晩御飯っすよ。お腹空いたっす」
気づけば太陽は傾きかけていた。
「ハーゲー大隊長に報告してきます。そのあと城下で何か食べましょう」
その言葉にイオは満面の笑みを浮かべた。




