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03-01:戦士と武闘家とハゲと

 晴天の下で声が響く。


「ほらほら。どうしたこの程度か」


 チュウカーン城の訓練場。警備隊長のスカル・スタンスローは部下の兵士達数人を相手に実践訓練を行っている。

 訓練といってもすでにこの場に居るほとんどの者は膝をついて息を荒げていた。

 そのうちの一人が、息を落ち着け立ち上がる。


「ま、まだまだぁ」


 声上げ、剣を振り上げてスカルに斬りかかってきた。

 スカルはそれを盾で軽く受けると、受けた衝撃を反らし、その勢いで回し蹴りを兵士に打ち込む。


「兵士が一人で攻撃するな!」


 スカルに蹴られた兵士は、膝をつき嘔吐してせき込んでいる。


「たいちょーやり過ぎっすよ」


 何とも呑気な声で抗議をしたのは、副長のイオだった。

 短めの栗毛を後ろで結び、猫のような目に小さな眉毛、幼い体型のため10代に見えるが年齢は22歳。他の兵士と同じような制服を着ているが、手足が露出し動きやすくなっている。

 イオに言われ、ため息を着くとスカルは剣を収めた。


「あれくらいでやり過ぎという事はありませんよ。大丈夫ですか」


 蹴り飛ばされた兵士は片手を上げ、大丈夫ですと答える。


「剣を抜くと性格が凶悪になるのなんなんすか」


 スカルを見てイオが言った。


「凶悪とは人聞きが悪いですね、情熱的になると言ってください」


 冷静と言われるスカルだが、剣を持つと自分でも気が大きくなるのは分かっている。

 剣を持っている時の方が隊長向きだと、他の隊長達にからかわれることもしばしばであった。

 しかしどうもまた、訓練でやりすぎたみたいだ。


「少し兵士達も疲れてるみたいですね。休憩も兼ねて今からは講義の時間にしましょうか」


 ほら皆さん集まって下さいと手をたたく。兵士達は疲労した身体を引きずってスカルの前に集まってきた。


「適当に楽な姿勢で座ってください。イオ、あなたはだめです。副長でしょう」


 座ろうとしたイオは咎められ、不満げに口をとがらせる。

 全員が座ったのを確認してスカルは話し始めた。


「先ほど私は、そこの彼が切りかかって来た時に、『兵士が一人で攻撃してはいけない』と言いましたが」

「正確には『兵士が一人で攻撃するな!』です」


 イオがスカルの口調を真似して口を挟む。兵士達がそれを見てクスクスと笑う。


「イオ」


 スカルが睨むとイオはまた口をとがらせそっぽを向いた。

 スカルは咳払いをし、話を続ける。


「なぜ『兵士』が一人で戦ってはいけないか、そこの右肩押さえてるキミ答えてください」


 指をさされた兵士は立ち上がろうと膝を立てるが、スカルにそのままで結構と言われ座り直す。


「それは、『兵士』の加護が集団で戦う事で強くなる効果を持っているからです」


 兵士の回答に頷くスカル。


「若干抽象的な回答ですが、まあ正解です。人間がモンスターと戦う為には、精霊の加護を得て戦闘力を上げるのが基本です。加護を受ける為には神殿で儀式を受けて戦闘職業を得る必要があります。私と副長以外は全員、戦闘職業を『兵士』として儀式を受けてますよね。『兵士』の加護は身体能力の強化ですが――」

「うちと隊長の加護は違うんすか」


 イオが話しに割って入ってくる。


「私は戦闘職業は『戦士』、加護は身体強化と身に着ける武器防具の強化です。イオあなたは武闘家ですよね、武闘家の加護はなんですか」


 イオは腕を組んで眉毛を寄せている。以前に何度も話したことある内容なのに思い出せないようだ。


「あなたが得意な事が加護と関連あります」

 

 スカルはヒントを出す。

 イオは、あっと手を打つ。


「寝る前に食べても胃がもたれない事っす」


 自信満々で答えたイオにスカルは呆れたように頭を抑える。


「そんな加護がありますか。武闘家の加護は身体強化、主に俊敏性の強化と、手足の硬度向上です」


 へえぇと自身の手足を見つめ感心するイオ。どうせ一日もたたないうち忘れてしまうだろう。


「戦士の加護が身体強化と武具の強化なら、全員戦士で戦った方が強いんじゃないですか」

「おや、イオにしては良い疑問ですね」

「先ほど答えてもらったとおり、兵士の加護には特性があります。それは近くに武器を構えている兵士がいる場合、身体強化の効果は増幅するというものです。つまり同じ練度の戦士1人対兵士1人の場合は戦士が勝ちますが、戦士10人対兵士10人だと兵士が勝ちます」


 眉間にしわを寄せ、何やら考えているイオ。おそらく1人、10人と数字の比較が出たので混乱しているのだろう。

 兵士達は基礎知識として頭に入っている内容なので、そうだった、そうだったと皆頷いている。


「何か質問のある人」

「はいセンセー」とイオが手を上げる。

「勇者はどのような特性を持っているんですか」


 全く、イオらしい質問である。


「勇者という戦闘職業はありません。自称勇者達の戦闘職業はほとんど戦士です。だから勇者だから何か特別強いというのはありません。普通の戦士です」


 これはモンスターとの戦闘と縁遠い一般人は間違えて認識している者が多い。


「なんだぁ、ちょっとガッカリ」

「勇者といえど所詮ただの冒険者なんです。正規兵たる我々のように使命感を持って戦っているわけでもありません」


 その時、正午を告げる鐘が鳴った。

 もう少し話したい事があったが時間が来てしまった。


「午前の訓練はここまでとします」


 とたんに緊張の糸を切って、にぎやかになる兵士達。


「お昼ごはんっすね。今日は何かな」


 イオが一番楽しそうだ。

 さて、食堂にいくかなと思った時。訓練場に駆けてき来る兵士に気付いた。


「スカル隊長、イオ副長。ハーゲー大隊長がお呼びです」


 イオが不満一杯の顔でこちらを見てくる。気持ちはわかります。


「分かった。すぐ行く」と兵士に伝る。

「という事で、行きますよイオ」


 スカルは、「ごはん」とつぶやくイオ引きずって歩き出した。


 ◇◆◇◆◇


 大隊長以上になると専用の執務室を持つことができる。

 スカルとイオは大隊長の執務室前に居た。

 「なんで私も」と不満を言うイオを無理矢理連れてきたスカルだったが、正直イオを連れて上官に会うのは気が重かった。


「制服の前ボタン閉じてください。大隊長に会うんですよ」スカルの注意に、イオはしぶしぶ上着のボタンを閉じた。


 ノックをすると「入りなさい」と声が聞こえる。


「失礼します」


 ドアを開け入室する。


「スカル隊長、イオ副長ただいま参りました」


 簡単な棚と執務用の机。来客用の椅子もあるが壁際まで避けてある。


「こっちに来なさい」


 促されて、その男が座る机の前まで移動する。何やら書類に書き込んでいる途中のようだ。

 ハーゲー・クリスタン大隊長。神経質そうな細目にメガネをかけている。たしか年齢は34だったと思うが、後ろの撫でつけた頭髪は年齢以上に後退していた。

 スカルとイオの直接の上司にあたり、警備関連の職務の取りまとめをしている。

 ひと段落したのか、目の前の紙を横に置き、机の上で指を組んでスカルを見る。


「スカル隊長は明日は、兵士の訓練と警備体制の確認、再検討の予定だったと思うが」

「その通りでます」

「緊急の仕事が入った」

「どのような内容でしょうか」

「要人警護だ。豪商ザール・ミザール氏を港町までお連れしろ。以前に何度か警護したことがあったはずだ」


 嫌な予感が的中だ。


「お言葉ですが、現在港町への街道は安全とは言い難い状況になってます。先日もリザートソルジャーが出現したとの報告が入っており、これまでの警護と同じようには――」

「馬鹿かお前は。安全じゃないから警護するんだろ」


 抑揚の無い罵倒にスカルは言葉につまらせた。


「この国はザール氏達商人からから資金を借りている。特にザール氏は多額の寄付も行っているんだ。国政にも影響する要人であることを忘れるな。それと、今回は城の兵士は動かせん。北からの防衛、城の警護でいっぱいだ。」

「どうしろと言うのですか」


 若干反抗的な口調になったことを気にする余裕はなかった。


「代わりのコマは用意している。詳細はこの資料を読め」


 ハーゲーは資料をスカルに渡すと、もういいといった雰囲気で事務作業を再開する。スカルとイオは一礼をして執務室を後にした。


「わたしハゲ大隊長キライっす」


 執務室を出た直後だった、思わず振り返ってその場にいないことを確認してしまう。


「頼むから、人前でハーゲー大隊長をそんな呼び方しないでくれよ」


 ぶう、と頬をふくらませるイオ。


「何であんな人が大隊長なんすか」

「実践で手柄を立てた等の話は聞きませんね。でも事務仕事は昔から抜群に出来ると聞いています。家柄も申し分ないですし。将来の将軍候補なんて話も出てる位です」

「でもあたしは嫌だな」


 むくれるイオ放っておいて、渡された資料を歩きながら見る。

 それは掲示物の複写であった。


「冒険者の皆様へ」


 冒頭の一文を読んでスカルは肩を落とした。


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