02-03:院内反省
治療室にはベッドが、4列。1列につき5つのベッドが並んでいた。
「ああ、あそこにいますゲコ」
包帯を身体のあちこちに巻いた3体のアリゲーターソルジャーが2台のベッドに腰かけて、カードゲームに興じている。
「おし、俺の勝ちだ」
「うわぁ、俺は3連敗。兄者つえー」
「あの時先に妨害していれば良かった」
アリゲーターソルジャー達は大いに盛り上がっている様子だった。
「楽しそうですね」
ヘルメイジが後ろから声をかける。
「ヘルメイジ様、お疲様っす。どうですか1ゲーム。参加者多いほうが盛り上がりますし。レッドフロッグの旦那も」
「面白そうですがこの後も予定がありますので、また今度参加させてください。身体の具合どうですか」
アリゲーターソルジャーはもう全然平気っすよと各自ポージングをしながら包帯の巻かれた各所を見せてくる。
「回復魔法では傷口を塞ぐ事しかできないから、基本的には薬を塗って瘴気で自然治癒しかないゲコ。治療室は塔内でも瘴気の濃い場所を割り当てているゲコ」
得意げに説明するレッドフロッグ。
それを気にもせずポージングを続ける3体を、ヘルメイジは手で制止を促す。
「お聞きしたいことがあります。お三方が遭遇したのはどのような冒険者でしたか」
3体は互いの顔を見る。
「口が悪かった」
「恰好は貴族っぽかったな」
「ガキのくせに強力な魔法使ってたな」
もう一度互いの顔を見ると声を合わせて「女なのに、胸が無かった」といい、ギャハハッと笑った。
ヘルメイジは意見を求めるようにレッドフロッグ見る。
「他のエリアの拠点でも、似たような容姿の冒険者の情報が入って来てますゲコ」
「なるほど、厄介な冒険者が一人このエリアに入って来たということですね」
そのまま滞在するのか、他のエリアに流れて行くのかで対処の方法が異なる。瘴気のエリア拡大は進めたいが、少し様子を見たほうが良いのかもしれない。
「いやぁ、もう少し瘴気が濃かったら俺たちで仕留める事が出来たんですがね」
「そうそう、本来の力があったらあんな魔法耐えていたのになぁ」
「塔で戦っていたら俺一人でも勝てた相手だぜ」
戦士系モンスターは負けず嫌い。ヘルメイジは心の中でそうつぶやいた。
「街道への進出は待つように言ったはずです」
自分が怒っていると伝える為に、少し語気を強めて言う。
「だってよ」と言うアリゲーターソルジャーに「知ってるはずですよ、あの街道に出る『笑う切裂き魔』」
「なんすか、それ」
3体で顔を見合わせて首をかしげる。
どうやら本当に知らないようだ。朝礼でも何度か注意喚起しているのだが、かれらの脳には記録されていないのか。
「過去何度があの街道でモンスターが大量に消失しているんですよ」
「しょ、消失ですかい」と真顔で聞き返すリザートソルジャー。
「ええ、ある時大きく瘴気のエリアの拡大を狙って街道付近に、マッスルウサギ20体とアリゲーターソルジャー5体、イエローフロッグ10体を配備してたのでが、その日帰ってきたのはイエローフロッグが1体」
指を立てるヘルメイジ。アリゲーターソルジャー達はゴクリと唾をのむ。
「その帰ってきたイエローフロッグは片手を失い背中に無数の傷跡。そして塔内に帰ってきてからも、病室で布団をかぶってずっと震えて何もしゃべらなかったのです。私も無理に聞こうとはしなかったのですが、翌日実家にかえってしまいました。」
「じ、実家ですかい」と言い、またごくりと喉をならすアリゲーターソルジャー。
「ええ、そして彼が帰る前夜に、『笑い声が聞こえる』とうなされるのを他のモンスターが聞いたそうです。いったい彼が何に遭遇したのかは分かりませんが、我々を脅かす存在があの街道には居るという事です」
アリゲータソルジャー達は、もおふざけでごまかす空気ではないことを理解したのか。カードを持ったまま、三体ともうなだれる。
短くため息をつく。
「まあ、新しい冒険者の情報は助かりました。以後は勝手に行動しないようにお願いします」
顔を上げる三体、それぞれが返事をした。
その時、治療室の窓の外を何かが通りすぎた。
その何かは通り過ぎた後、再度窓まで来ると枠に逆さにとまった。金属の身体を持つ蝙蝠モンスター、シルバーバット。塔周辺の監視を担当している。
「ヘルメイジ様捜しました」
慌てた様子のシルバーバットである。
「どうしたんですか」
「先程キャッスルベア殿が森の外れに向かわれているのを見ました、確か彼は待機中だったと記憶していた為、報告に参りました」
まさかキャッスルベアが命令を無視して出ていくとは。
「報告ありがとうございます。待機するようには言っていたのですが、これは想定外です」
「アリゲータソルジャー達が遭遇した冒険者の件もあります。キャッスルベアといえども無事に帰って来るとは言い切れないゲコ」
「そうですね。連れ戻して少し説教する必要がありますね」
窓に陣取るシルバーバットに場所を譲ってもらい。呪文を詠唱、魔法を発動させる。
「隼翼飛翔」
風の翼をまとって窓から塔の外へ飛び出し、そのまま塔の屋上へと一気に飛翔した。




