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プロローグ

 薄暗い城の中、鎧姿の戦士が鉄枠のついた木製の扉を開けた。

 扉の向こうの部屋は他の部屋と同様に、壁に備えられた青い炎で燃える松明がわずかな明かりとなっていた。

 ひときわ大きな扉の前に2人の女性がいる。一人は法衣を纏い、杖を持つ女の賢者。もう一人は道着姿の女の武闘家。戦士を含め3人とも防具が損壊しており、全身あちらこちらに傷を負っていた。


「あら、遅かったわね」


 賢者が戦士に声をかけてきた。


「俺の相手した魔王軍幹部はやたら硬くてな、6本持ってきた剣のうち5本が折れちまったよ。多分魔王に次ぐ強さじゃないかな。できれば回復魔法をかけてほしいのだが魔力に余裕はあるか?」


 賢者は首を振る。


「命に届く程の傷じゃないなら我慢して、アタシの相手した魔王軍幹部はかなりの魔法使いで熾烈な魔法戦になったのよね。魔力はまだあるけど、一応魔王相手に攻撃魔法を放つ余力を残しておきたいの。多分私の相手した奴は魔王に次ぐ強さじゃないかしら」


 そう言うと、腰の革袋からクルミを加工した容器を取り出し、「エルフの軟膏よ」と戦士に渡す。


「なんや二人共、苦戦したんやな。ウチの相手はそらもう強かったなぁ、繰り出す攻撃をすべて躱すうえに、音よりも速い攻撃が飛んでくる。まあ、ウチじゃなかったら撃退できんかったやろうな。きっと魔王に次ぐ強さやったはずや」


 腕を組み得意そうに話す武闘家だがやはり満身創痍といった感じで苦戦が窺われた。


「まあいい、それより勇者はどうした、王座の間には入れないのか」


 問う戦士に賢者は呪文を唱え、小さな火の玉を目の前の扉にぶつけた。一瞬扉は薄く光り、火の玉はその光に溶けるように消滅した。


「さっき入ったときには無かったけど、今は強力な結界が貼られてるわね。扉以外の壁も同様。仮に城を吹き飛ばしても王座の間は無傷で残るでしょうね」


 城を吹き飛ばすか、この女ならやりかねないなと思いながら戦士は別の方法が無いかと思案する。


「うちの気功も通らんかったし、待つしか無いんちゃう」


 戦士の思案を見越したように武闘家が言った。

 戦士は深くため息を吐くとその場で胡座をかいた。

 賢者は憎らしげに扉を睨む。


「全く完全に相手の作戦にハマッたわ。まさか王座の間で勇者と私達を引き離しに来るなんて思わなかった」


 イラつきを隠さず、賢者は扉を蹴り上げた。扉は薄く光りその衝撃を吸収する。


「落ち着けよ、勇者の事好きだからって、無駄にイラついても仕方ないぜ」


 からかうように言う戦士。


「はぁ!?」と賢者は戦士を睨みつける。


「なんであたしが、あんなバカ好きにならなきゃいけないのよ」

「お前、俺らが気付いて無いと思ってるの?側から見ててモロバレだぞ」


 薄ら笑いを浮かべながら戦士が言った。その言葉に賢者は顔を赤くする。


「勇者本人も気づいて無いやろ、鈍チン同士お似合いやで」


 武闘家の言葉に、賢者はより一層顔を赤くする。


「な、何よ。あんなやつとお似合いとか、迷惑でしかないわ。好きとか、そんなんじゃないわよ。仲間だから心配してるだけよ。そんな事言うなら戦士だって勇者の事好きじゃない。いつも男同士で一緒にいて」

「そりゃ、俺と勇者は友達だからな、友として好きだよ」


 表情も変えない戦士に、納得いかないのか矛先を武闘家に変える。


「ぶ、武闘家だってよく勇者にまとわりついてるし、実は気があるんじゃないのぉ」とニヤニヤしながら賢者は武闘家を見た。

「あれは借金の催促しとるだけやで、利子分だけでも返してもらわんとウチも商売やからな」


「商売なのかよ」と呆れたように戦士。「因みに今あいつ、借金いくらになってるんだ」と質問した。


 武闘家は懐から取り出した紙の束を見ると、口元に手を添え2人に金額を耳打ちする。


「はあああああ!?」


 戦士と賢者は声を上げた。


「エグい金額ね、仮に魔王討伐の褒賞が出たとしても借金でチャラになるじゃない」


 この場にいない勇者を賢者が憐れむ。


「酒代ちょくちょく借りてるだけだと思ってたけど、チリも積もればってやつか」


 腕組みしながら唸る戦士。


「利息や利息。利息が借金を膨らませ、また利息が増える。そしてウチの老後を安泰にしてくれるっちゅうわけや。せやからさっさと魔王討伐して褒賞金もらわんとな」


 嬉しそうに親指と人差し指で輪っかを作って武闘家は言った。

 その時、扉が赤く光った。


「結界が解除された!?」


 賢者がいち早く扉の変化を感じとる。

 扉が軋みながらゆっくりと開く。

 3人は一瞬で扉から距離をとり戦闘態勢をとる。

 扉からは、黒髪の青年が出てきた。剣を杖代わりにして、何とか歩いている。


「勇者!」賢者は、攻撃に備えて詠唱していた呪文を中断すると駆け寄った。戦士と武闘家も構えを解いて近づく。


 目立った外傷は無いが、勇者は3人以上に衰弱していることが見て取れた。直ぐに体の状態を調べて、回復魔法をかける賢者。


「取り敢えず大きな傷は無いみたいね。気休め程度の回復魔法はかけたけど、体力の消耗が激しいから、あとは自然治癒に任せたほうがいいわ」


「魔王は倒したのか」勇者に肩を貸しながら戦士が問う。


「魔王は倒さない、いや、倒せないんだ」


 俯いた勇者が泣き声混じりで言った。

 こんな勇者見たことない、いつも明るく何かあれば魔王討伐を叫んで自身と仲間を奮い立出せてきた。

 仲間達の傷ついた姿を見て「ごめん」と勇者は呟いた。

 3人は互いに顔を見合わせる。


「それじゃあ帰りましょ。こんなカビ臭い城に長居してたくないわ。また気が向いたら倒しに来ればいいのよ、魔王幹部も見掛け倒しで全然強くなかったし、あれなら何度きても倒せるわ」

「俺の相手した魔王幹部も弱かったな、素早さが皆無って感じで、面白いくらいこっちの攻撃が当たる当たる」

「うちの相手も弱かったわぁ、かしこさ低そうやったから幾らでも戦いようがあったわ」


 明るい口調で話す3人。

 勇者は戦士に肩を借りた状態で、ぐすぐすと泣きながら、仲間の会話を聞いている。


「もう勇者は引退するよ。俺には戦う理由が無くなった」


 うなだれる勇者を見る3人。


「いいんじゃない、もう魔王も何もかも忘れて。あたしも魔術の研究でもしてのんびり過ごそうかしら」

「俺は、いろんな経験をして今とは違う景色を見てみたいな」

「うちは家庭に入って堅実に生きていくわ」


 魔王城の入り口の扉を開け、4人は外に出た。魔王城の外は、この大陸の気候にしては珍しく快晴だった。

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