プロローグ
午後20時。
仕事を終えた俺はファミレスへ足を運ぶ。
食事の為――違う。もう晩飯は食べてきた。
誰かとお茶する為――それも違う。
俺は現在1人で待ち合わせもしていない。そもそも、お茶をする相手なんて存在しない。
――では、なんの為にファミレスに来たのか。
と、その説明する前に自己紹介をしておこう。
俺の名前は……いや、それを聞いてもなんの為にもならないので割愛しよう。
あえて名乗るのであらば「フレンチ」と名乗らせて貰おう。何故そんな変な名前なのかは後々分かる。
性別は残念ながら男。年齢は29歳の会社員だ。年収は年齢的に見て平均より少し下程度で、それでいて独身だ。
今現在まで俺は婚約者どころか、人生の中で一度も彼女ができた事すらもない。それどころか、ここ数年女性と話す機会すらなく、あるとするなら同じ会社の女性社員との事務的な会話くらいだ。
やはり、自分から行動をしなければ結果は訪れないのだろうか。まぁ、自分から動くつもりなんてないがな。別に諦めているのではないぞ。
このステータスを見た人間の大抵は、俺を悲惨な人間だという感想を抱くのだろう。至極当然だと思う。
そんな事ないと言ってくれる人間がいたとして、じぁあ友達になりたいか? と言われてもイエスとは答えないだろう。所詮は偽善。
だが別に俺は自分が悲惨だなんて思ったことは一度もない。
決して強がりではない。客観的に自分を見つめ世間体の視点というフィルターを通して尚、悲惨という結論を導き出す事はできなかった。
では、どうして悲惨ではないかって。
簡単だ。これから俺には明るい未来が待っているからだ。人の価値を決めるのは最後だ。活動を終える時にどうであったかだ。過程で結論を出すなど笑止。浅はかの極み。最後に笑っていればそれでいいのだ。
自分から行動しないのもその為だ。俺がその未来を手にすれば、自分から行動せずとも自ずと向こうから女が寄って来るようになる。現段階で無理をする必要がないのだ。
今回俺がファミレスを訪れたはその栄光の架け橋を築く為なのだ。
では、その明るい未来とはなんなのか。
それは――超大物ライトノベル作家だ!
これには肩透かしをくらった者もいるだろう。
確かにライトノベル作家は世間的には低く見られがちなのかもしれない。
だが、結局この世は結果が全てなのだ。
面白い作品を描き、大量に本が売れればそれだけ大きな収入が入る。
そう、人間の価値とは結局は金。所有額が全て。
それを得る過程なんて、法を犯さない物であるならなんでもいい。過程を突いてくる人間など所詮妬む事が仕事の負け犬なのだから。
金さえ持っていれば女なんぞ尻尾を振って寄って来るのだ。札束で尻をひっぱだいてやればもうイチコロよ。
俺はやがて売れっ子作家になり、大量に金を稼ぎ、ある程度の資産が溜まり次第、社長の顔に辞表を叩き付け勝ち組街道を進むのだ。
勿論その根拠もある。俺は自分に作家としての才能があると自負している。
結果ももう出始めている。現在、インターネット小説投稿サイトにて、俺が掲載している作品は多くのPVを稼ぎ、ランキング上位を維持しているからだ。
それはもはや、既に人気作家といっても過言ではないだろう。
こうなれば、書籍化の話が来るのも時間の問題。
もうそんな未来街道が見えきっている。だからこそ俺は自分が悲しい人間だなんて思わないのだ。
さぁ、今日もそんな明るい未来の為に、ファミレスでの執筆活動――ふぁっぴつを始めるとしますか!