1.17日の人魚
ここは、経済的に豊かな家だけが暮らせる、高級住宅街が密接する、『北クイーン地区』。
ノエル・グリーンは、その家の1つに住んでいる。この地区に住んでいるお嬢様たちの1人である。
この北クイーン地区では、クリスマスの近づく12月1日に飾り気のないツリーをおき、地区の中で特別に配られるアドベントカレンダーの中から出てくる美しい飾りを付けて、25日に初めてあかりを灯す という風習がある。
また、この時期になると 北クイーン地区の娘たちが家の外に出る事があまり良くないと言われてきた。 互いの家で遊んだりする事も ごく稀になる。親友のフローラと遊びづらくなるこの時期の習わしは、ノエルにとって とてつもなく つまらない物だった。
しかし、11歳を迎えたノエルは、12月18日にフローラの家に呼ばれた。
…そう。この日がすべての始まりだったと思う。
フローラは、ノエルと同い年の金髪の少女だ。想像力豊かなノエルと比べると現実主義な方だが、今回はまるで逆になってしまった。
「ねぇ、ノエル。アドベントカレンダーの夢、みた?私、怖くて怖くて、何もできず去ってしまったのだけど…」
「まぁ、何のこと?」
「まぁ!、私、あなたなんて もっと前から知っている事なのかしらって、ずっと思っていたけど」
話が見えないままひと息つくと、フローラは青ざめて語り出した。
「に、人魚が出たのよ。こんなこと、ホントはあなたが言うような台詞だけど、私、確かにこの目でみたの。」
フローラの目からは、“ウソ”や“冗談”は感じとれなかった。
「とにかく、ノエル! 今夜はうちに泊まってくださいな!
また あの生き物に出てこられたら たまらないわ!」
ノエルは つまらないこの時期に 面白そうな事が起きるとは思っていなかったので、
「もちろんよ! 今から家で荷物をまとめてくるわ!」
ノエルの母とフローラの母は学生時代からの友人で、中が良い。生まれてずっとこのきたクイーン地区に住んでいる、信頼の深い仲だった。
「お母さん!私、今日はフローラの家に泊まってくるわ!
怖い夢を見て 眠れないんですって。」
「あら。良いわよ。荷物まとめるの手伝ってあげる。」
“フローラママによろしくね”と言ってお母さんは送り出してくれた。
フローラの家につくと、もう今日のアドベントカレンダーを開けてしまっていた。
昨日(12月17日)と今日(12月18日)のアドベントカレンダーの飾りは、ところどころスパンコールのような飾りが光輝く 服を身につけた マリアとヨセフのろう人形だ。
「この2人のお洋服の飾り、まるで人魚のウロコみたい…。」
何気なくノエルが呟いた瞬間、フローラの背中がカチリと凍りついたのがわかった。