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ある大征帝の伝記  作者: ウザン工廠
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龍海伴益 著〈英雄論〉より抜粋

「英雄とは成るものではない。勝手に他人が決めるものだ」

(とある老人の発言)

時とは、川の流れのように常に流れ行くもので、人々の記憶とはそこに浮かべた笹舟のようなものである。


長く浮くものもあれば、すぐに沈むものもある。


俗に「英雄」と呼ばれる人は、ずっと沈まない笹舟のようなものである。


しかし「英雄」とは、語られなければ生まれない。


目撃者・当事者が第三者に語り、その第三者が第四、第五の人間に語り、噂がどんどん広まり、その噂を詩人や文学者が詩や俗本にし、そしてそれがまた広まって、やっと「英雄」は生まれるのである。


************************


廻国の芸能者が我が国の街角に立ち、人が集まってくると、必ず歌う曲がある。


まず芸能者は歌う前に人々に問う。


「汝らは昭山王七神将の御名をお知りか?」と。


人々は答える。


勝基寿(かつもとひさ)嘉井貴逹(かいたかたつ)寺矢師賢じやもろかつ周義秀しゅうよしひで光本秀氏みつもとひでうじ

土元護久どもともりひさ創野政永そうのまさなが。この七人である」


芸能者、また問う。


「では御統一の戦さ、龍巣湖の海戦での英雄は?」


徳井龍信(とくいたつのぶ)である」


「では北帝来寇の防衛戦の英雄は?」


王牧信(おうまきのぶ)幽谷保光(かすみややつみつ)である」


「では南伐の遠征の英雄は?」


「淡洲皇親家、征鷹宮直仁せいようのみやなおひと親王殿下である」


ここで芸能者は問の趣旨を少し変えて問う。


「では直仁殿下の御子孫といえば誰か?」


人々は待ってましたという顔で答える。


「帝国衆民たるもの、その名を知らぬことはない。

〈大征帝〉憲明帝(けんめいてい)である」


芸能者はその答えを聞くと、手に持つ楽器の演奏を始める。


「ならば奏でよう。大征帝の御功績を讃えた歌を。改めて皆でその御名を歌い、子に孫に伝えよう。それでは始めようか」


その歌の曲名は「大征帝叙事詩」という。


それは言わば、大鷹(たいよう)帝国第五代皇帝・憲明帝の伝記である。


歌の内容は、軍記物に描かれるような、「英雄」大征帝としての立派な君主像を讃えたものではなく、


「人間」征鷹宮憲久せいようのみやのりひさのありとあらゆる視点から観た姿を描いたものである。


もし、この歌の主人公が憲明帝でなければ、御法度になっていただろう。


しかし、憲明帝とはそのような人物なのだ。


どの帝よりも、どの英雄よりも、民衆に尊敬され、讃えられ、愛されている。


それこそ英雄である証拠である。


もし憲明帝、いや、征鷹宮憲久が第二代皇帝、

〈賢帝〉親仁帝(ちかひとてい)の治世に産まれていたのならば、ただ「直仁親王殿下を支えた名将」として名を残すだけであっただろう。


憲明帝は絶好の時に生まれたのだ。


暗雲立ち込める時代に、暗雲を切り裂く一筋の日光の如く。


時代が英雄を求めたときだったのだ。


だから永久不変の英雄なのだ。



もし、後年、憲明帝を超えんとする者が現れたのならば、一つ、助言しておこう。


時代が何を求めているのかを見定め、それに合った活躍をしなさい。


さすれば、人々は君の功績を語り継ぎ、後の世の人々が、君が英雄であるに足りるかどうか、よく吟味してくれるだろう。


「英雄になる」とはそういうものだ。


ずっと英雄の叙事詩を書きたかった。

今回それに挑戦する。

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