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完全変態。

次の日




ノートはまだ手元には来ていなかった。

あのノートが待ち遠しい。今どうなっているのか。


そして、展開的にどうなっているのか。




ー芋虫が蝶になる話かな。ー



積木先輩の言葉が頭にこだまする。









「おはよう怜人。」


土日を挟んだ月曜日。今日の朝も、騒がしい廊下で松利晴大は気安く話しかけてきた。

その様子に、さっきまで一緒に笑っていた友達も顔が引きつる。




そして次第に、僕の周りから仲良くしていた彼らが離れていく。

彼らもこんな奴と仲良くするくらいなら僕事突き放した方がいいに決まってる。



僕ならそうするし、所詮上辺だけの付き合いにしか過ぎない。




「今日は何?」



その様子に僕も完全に開き直って彼に聞いた。



「さっきプレゼントを渡した。綱部君に。」



「プ、プレゼント…?」



「ありがとうって言ってくれた。結構高かったんだよ。ドライヤー。」



「ドライヤーあげたの?」



「うん。喜んでたよ。」



「なんでドライヤー?」




「あの可愛い天パをよくお手入れしてほしいなって。」



「そ、そっか…。」



本当に綱部は受け取ったのか。

まだこの綱部と松利晴大の気持ちの悪い片思いが続いているなら、次の執筆者は綱部じゃない。

次丸先輩か、積木先輩だろうか。




この中で一番困惑しているのは綱部だと思うが、僕を親友と書いた奴も許せない。



「怜人。あのさ、僕ね…今物凄い物足りないんだ。」


「は?」



「なんて言うか、今が物凄くつまらなくて。なんていうか、刺激が欲しいんだよね。」




「そうなんだ。」


興味0%の生返事をしてやった。


「無い?そう言うの。誰かに隠してる欲みたいなもの。」


「欲…?」


「芋虫って小さくて何もできないように見えるけど、あんな大きな羽を持った蝶になるんだよね。そう言うのなんて言うかわかる?」



「…。」



「完全変態。」



松利晴大がニヤッと笑い、また目を見開いたまま僕を見つめる。

僕はその目がすごく嫌いだ。


「だから何だよ。」



「自分をさらけ出すことって大事だと思う。そうすれば大きな羽が生えてくる。」



「はあ?」



誰なんだこんな話書いた奴。

こいつもこんな事言って恥ずかしくないのか。




「何が言いたい?」


「怜人も本心を隠さないで僕みたいにさらけ出してみてよ。」


「…。」



すると、松利晴大は突然真顔になった。

僕はその感情の起伏の分からなさにまただらしなく怯えると、彼はそのままゆっくり何事もなかったかのように教室に戻っていった。




「何なんだよ…。」




その後、この男が絡んでくることはなかった。






僕の手元にノートが来たのは1日後の火曜だった。




「…。」




順番からするとまだ8番目。


僕は靴箱に入っていたノートを取り、お気に入りの週刊誌を手に入れたような速さで、さっそく人気のないトイレの中でそれを読み始めた。





前回、僕が綱部を売った後は、その話通りに事が進んでいた。僕を親友とする話も、ドライヤーを渡した下りも、しっかり書かれている。

そして、謎の聞きたくもない松利晴大の完全変態の話。


誰だ書いたの。


筆跡は違えど、誰が誰かまでは分からない。


だが、あの松利晴大がこの事を全部実行に起こしてるのが怖い。

あいつは積木先輩の命令でやってるのか、はたまた己の行動なのかよくわからない。




だが気になる箇所があった。




「蝶の話を皆にした…。」


皆?



皆って事は、僕以外にもこの話をわざわざ?





ガタ



僕は突然の物音に上を見上げた。



「わあああああああ!!!?」




そして大きな声を恥ずかしげもなく上げてしまった。



「何してんだよ。溜まったのか?」


「あなたこそ何してるんですか。桃津先輩。」



桃津先輩が隣の個室から便器の上に登ってこちらを覗いていた。



煙草の香りがしばければ気付かなかった。




「タバコ吸いに来たんだよ。エロ本?」



「リレーの奴ですよ。」


「おお。見せてみろよ。」



「あ!」



有無を言わさず、そのノートを取られた。



「ふーん。なるほどこれだったんか。」



「なんですか?」



「いや、次丸の元にあのぼっち君が来てなんか話してたからよ。」



「完全変態ですか?」



「馬鹿!俺は変態じゃねえよ。スケベなだけで。」


「何わけわからない事を言っているんですか。そのノートに書いてある話ですよ。」


「知らねえ。話までは聞いてねえし。なんか、急にわけわかんねえ話になったな。誰が書いたんだ?」



「知っちゃいけないルールなんで知らないです。」


「もう積木に黙ってみんなで教えればいいだろ。」


「そこまで誰もお互いを信じてませんよ。この中にこんな内容のものを書く人間がいると分かったら。」



「綱部を陥れたのはお前だろ。まあ、それはお前らの自由だし。けど、この展開なんとかしろよな。綱部とぼっち君の恋愛とか気色悪い。」



桃津先輩はそう言うと、ノートを僕に投げた。



「頑張れよ。積木の命令は絶対だからな。」



臭いたばこの煙を吐きながら、隣の個室に姿を消した。


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