再現
「お疲れ様。」
そして二時間弱、僕たちはそこで過ごすと解散する。
「お疲れっす!」
「おつー。」
綱部と桃津先輩が一緒に出て行った。
今日は2人でどこか寄るのか。
「お疲れさん。」
積木先輩は出ていく僕らに手を振る。
いつも最後はリーダーである彼が戸締りをする。
「帰ろうか。」
次丸先輩が僕を誘った。
帰り道も同じな僕たちは、リレー小説について少し触れた。
「…どう思います?」
僕は少し吹き出しながら次丸先輩に問いかけた。
「小説の事?」
「はい。結構な無茶だと思いません?」
「確かにね。もう書いた?」
「はい。書きましたよ。」
「あれって、彼も参加してるのかな。」
「松利晴大ですか?それは分からないですけど。」
「なんか、場違いだよね。」
「ですよね。僕たちと一言も話さないし。なんで積木先輩は彼を選んだんだろうな。しかも、小説の題材って。」
「積木君にはなにか考えがあるのかもね。」
「考え…ですか。」
「そんな深く考えないで気楽にやろうよ。あんなの気まぐれに過ぎないでしょ。」
「はい…。そうですよね。」
次丸先輩の言葉に僕は少しだけ胸の荷をおろせた気がした。
次の日
「おはよう。」
僕が教室に入ってくるなり、松利晴大は僕に挨拶をしてきた。
「…おはよう。」
僕はその挨拶に戸惑いながらも返した。
「相談があるんだけど。いいかな。」
「は?」
見たことのない松利晴大の黒い瞳が目に飛び込んでくる。
まるで僕たちが元から友達だったかのような振る舞いに戸惑う。
彼は僕のその戸惑いをちっとも汲み取ることもなく、手を掴んでどこかに連れて行く。
思わずその手を払いのけて廊下で立ち止まった。
「ちょっと待ってよ!馴れ馴れしいんだけど。」
「あのね、実は綱部君の事が好きなんだ。どうしたら思いが伝わるかな。」
「へ?」
僕はまたキョトンとした顔で彼に間抜けな顔を見せてしまった。
「ずっと好きだったんだ。でも、思いをどう伝えていいかわからなくて。」
「…。」
「聞いてる?怜人君。」
「れ!?」
思わず声が裏返る。こいつ、なんで僕の名前を下で呼んでんだ。
僕の友達ですら苗字なのに。
だが、この異様な状況に、脳の片隅にははっきりとあのリレー小説の事だと分かっている。
綱部が好きだって設定も、僕が考えたのだから。
偶然じゃない。こいつは小説の内容を理解してこんな事してる以外にあり得ない。
なら、次の展開は誰が書いた?
多分、こいつもそのシナリオ通り動いているに違いない。
「盗み見てるのかお前。ルール違反だぞ。」
僕は奴を睨みつけた。
「ねえ。お願いアドバイスを頂戴。」
「聞いてるのか?」
「頂戴!!!」
「!!」
彼はまるでオオカミのように大きく目を開いて、僕を食べるかの如く口を大きく開いて叫んだ。
聞いたことのない松利晴大の大声に悔しいが怯えてしまった。
「どうしたんだよお前…。」
腕をまたがっしり掴んで、その光のない目が僕の動揺した目を見開いた眼で見てくる。
瞳孔が開いたまま、いつまでも彼は真剣な顔で僕の二つの目をがっちり捉えていた。
「僕にはわからないよ…。綱部とそこまで仲良くないし。」
「そっか…。ごめんね。」
「…。」
彼はそのまま、汗が止まらない僕の腕から手を放した。
そして、一瞬で顔を変えると、にっこりと笑った。
「ありがとう。僕の友達。親友の怜人君。」
「親友…?」
彼はそう言うと、そこから出て行ってしまった。
「…。」
何か言いたいが、頭にぐるぐるといろんなものがミキサーの中の野菜のように混ざって、唇が震える。
あの小説を、松利晴大が盗み読みでもしてるのか。
本当にただの偶然か?
もしそれが本当だとすれば、僕の後の人がこんな展開にしたのか…。
あいつ自身がしたとか?
僕はこの一日何も手がつかなそうだ。




