変態
この雰囲気で、もう蒸し返すことはできないと思った。
なんだか、みんなその先を覚悟しているような気がして。
その後もずっと、ノベル部は終始シーンとしていて、誰1人会話をしなかった。
僕はふと、今日は来なかった積木先輩の席を見た。
来ない日なんてことがあるもんだ。
「はるはる。一緒に帰ろう。」
綱部は相変わらず松利晴大にべったりだ。
だが、彼はそんな綱部を無視して先に部室から出て行く。
「ああ待って!今度またデートしようよ!」
綱部はそのまま行ってしまった。
「ふん。変わっちまったなあいつ。」
桃津先輩は苦笑いでそれを観ていた。
「元からああだったんですよ。化けの皮が剥がれただけの事です。」
「お前も化けの皮が剥がれて来たんじゃねえの?」
桃津先輩は僕の顔を覗いてニヤリと笑った。
「いえ、特に僕の中で変わったことはありません。」
「帰ろう。」
次丸先輩が僕の服の布を引っ張る。
「俺後やっとくから。じゃあな。」
桃津先輩はピースサインをして僕達に別れをつげた。
「すみません。お疲れ様です。」
僕は次丸先輩と部室を出た。
「だんだん寒くなって来たね。」
次丸先輩は僕にいつもの優しい口調で話しかけた。
あの時の怖さは今はまるで無い。
「はい。そうですね…。」
「そろそろ夏服仕舞わないと。」
「先輩、先輩は何故あの小説を続けたいと思ったんですか。」
「ああ、矢津君は反対派だった?」
「い、いえ、僕は何とも言えないです。」
「そう。なんと言うか、今が一番楽しいから。」
「あいつを殴ってる時ですか?」
「そう。それに彼すごく嬉しそうだから。」
「…。」
「おかしいよね。でも、僕の心の下にあるドス黒い部分がスーッと浄化されて行くみたいで凄く気持ちが良い。それに、彼を愛おしくも感じてくる。」
「まさか次丸先輩も!?」
「いや、僕の愛おしいは恋愛ではなく、中毒対象としてって感じ。煙草が好きな人と一緒だよ。」
「でもなくちゃいけないものってことですよね。」
「そうだね。彼を殴る時の支配欲と愛おしさが今の生きる糧かもね。」
「…。」
「変態って思った?僕もそう思うよ。でも、小説の意味ってそうなんじゃ無いかと思えて来た。どんな羽根でもいいんだよ。それが毒の持つ蛾だったとしてもね。」
「そ、そうですか…。あの小説、どんな結末を迎えると思います?」
「みんな蝶になったら、蜘蛛が食べるんじゃない?」
「バッドエンドってことですか?」
「さあ。成り行きに任せるし。僕も本能に任せるよ。」
「例え誰かが死ぬことになってもですか?」
「積木先輩が望んだことなら。」
「そうですか。」
「僕には危害を加えないでくださいよ。そんな趣味ないですから。」
「あの話に従うまで。そう思うなら書かなければいい。」
次丸先輩はニッと笑うと、いつものY字路で別れた。




