ノベル部会議
「はあ。」
話の内容を考えようと思ったのに。あそこのトイレはしばらく行かないほうがいい。
「駄目だ。放課後になってしまう。」
「矢津君!どこに行ってたの?」
「え?」
休み時間、教室に戻って来た途端委員長が僕の前に現れた。
「心配で保健室まで行ったけどうしたの?」
「え、ああ。お腹いたすぎてトイレにいたんだ。だから、保健室に辿り着けなくて。」
「そうなんだ。大丈夫だった?」
「大丈夫。1時間も休憩したし。」
「無理だったら言ってね。」
「…。」
勘違いなのかもしれないが、委員長は僕のこと好きなのか?
なんでこんな気にかけてくるんだ。
けどノートに書きたいことが決まったかもしれない。
次の時間、僕は先生の目を盗みまた小説を少し更新した。
考えてみれば、皆自分の好きな事書いているのだから、僕がわざわざあいつらを応援するような事書かなくていいと思う。
委員長の気を引きたい。
気をひくには、松利晴大がもっと殴られればいい。
「はあ…。」
僕は書きかけのノートを閉じた。
どうせ止めることはできない。
僕がここでしのいだとしても、意味がない。
ノートが渡ればそいつが神様なのだから。
あいつがいじめを受ければ、こっちに委員長が来てくれるのは少し嬉しい。
ならもっと殴られれば…
昼休み
松利晴大は相変わらず委員長の問いかけもガン無視で、この教室を眺めてくる気持ち悪い綱部にもガン無視だった。
綱部は怖いくらいここ数日で人が変わった様に思える。
流石にこの教室を覗く男の姿に皆が気になり出している。
誰も何も言わないが目障りだ。
そして昼の今も、気持ち悪いほど松利晴大を見ている。
僕はもうその光景を見たくなくて、うさぎ小屋前に向かった。
「ふーん。自分の欲に正直になったんだな。」
桃津先輩は相変わらず昼も食べずうさぎをデッサンしている。
「もうどうにでもなれって話ですね。」
「ふーん。まあ面白いことになってきたな。」
「面白くないですよ。もう僕にはどうもできません。あの3人は需要と供給が成り立っているんですから。僕がそこから完全に抜け出す方法だけ考えてます。」
「そうか。流石だな。」
「桃津先輩ならどうします?この僕みたいな状況なら。」
「俺なら?そうだな、あの3人をこの小屋に閉じ込めるかな。」
「閉じ込めるてどうするんですか?」
「兵糧攻めする。」
「殺すんですか?」
「うさぎ大好きになるまで出さねえかな。」
「なんですかそれ。」
「お前はあいつらを殺すのかよ。」
「殺すって人聞きの悪い。なるように任せます。」
僕は人殺しではない。
うさぎを見ながら残りのページを書き上げた。
その日の放課後、僕は積木先輩にノートを渡すためにノベル部に向かう。
「…やってる。」
今日は明かりがついていた。
ガチャ
あれ?
中を開けたが、明かりがついてるだけで積木先輩の姿はなかった。
しばらくするとメンバーが全員やってきた。久しぶりすぎて、なんだか少し緊張する。
部室のメンバーもどこか静かで怖い。
平静を装っているが、みんな下ではとんでもないことを考えているに違いない。
「ねえみんな。」
すると、綱部がいきなり立ち上がった。
その様子に全員が視線をやる。
意を決した彼は、口を開いた。
「あのさ、この小説もう辞めない?」
まさか、綱部が自らそんなこと言うとは。
「潮時は今だと思うんだ。これ以上続けたら、大変なことになる気がして。なあ、どう思う?矢津は?」
「…僕は。」
あいつがこんなこと考えていたなんて。
その綱部の行動に嬉しくなった僕は、言葉を発しようとした時だった。
「嫌だ。」
僕より先に、そう答えたのは松利晴大だった。
「はるはるのためにと思って言ったのに。こんな暴力者にいじめられるの嫌じゃないのか?」
綱部は机を叩いて次丸先輩を睨みつけた。
「だって、いまが一番幸せなんだ。僕にとっては。」
「俺も松利君に賛成だ。嫌なら破門だ。」
次丸先輩は綱部を見てニヤッと笑う。
「なあ、俺達そろそろ目を覚ましたほうがいいんじゃないか?積木先輩だってさ」
「綱部。」
桃津先輩が綱部に無言の圧力をかけた。
綱部はそのまま押し黙った。
「知らないよ?俺は。どうなったって…。」
綱部は小さくそう言うと、席に座った。