綱部の暴走
「矢津!!」
「!?」
昼時間がそろそろ終了という時に綱部が走って廊下を歩く僕を捕まえた。
血相を変えた奴は、僕の腕を掴むとわなわなと震えていた。
「お前なんで黙ってたんだよ!!!」
「え?」
「はるはるのブレザーの事!なんで言わなかった!!」
「はるはる…。」
やめてくれそのあだ名。
「俺耐えられない。次丸先輩を殺そうかな。」
と、綱部はポケットの中のカッターを取り出した。
「やめろよ!」
「殺せば、はるはるも傷つかなくて済むし…。」
「お前そんな事したら学校どころか人生終わるぞ。」
「けど…。」
綱部は泣きながら崩れた。
「それに可愛いすぎるんだ。」
「え?」
「傷ついてるはるはるが可愛いすぎる…。殴られたあの顔を見ると益々可愛く見えて仕方がないんだ。」
「何言ってんだお前。」
「こんな事言っておきながら、俺ははるはるのその姿にキュンっと来てしまっている。なんかそれが申し訳なくって…。」
綱部はそうボロボロ涙を流していた。
僕はその姿に昔の綱部のイメージは完全に消え、ガラスの様に粉々に砕けた。
こいつがこんなド変態だったなんて。
知りたくもなかったし、今思うことはこいつと関わりたくない。
その涙すら理解できないししたくない。
「お、落ち着けよ。カッターなんか出すなって。」
「そのいけない気持ちにさよならしないと、俺がどうにかなりそう…。」
「どうにかなりそうって、お前はどうするつもりなんだよ。」
「わからない。どちらかを殺してしまいそう。」
「なんでどちらかなんだよ?」
「憎しみで次丸先輩を殺すか、このまま俺のものにする為にはるはるを愛で殺すか…。」
「もう参加するな!あの小説から手を引けよ!」
「何言ってんだ?」
「お前どうかしてる!!いいからもう手を引けよ!このままだと大変なことになるぞ!!」
「参加しなくなったら積木先輩に申し訳ないだろ!!」
「けど、お前が人殺しになる所なんか見たくないんだよ!!頼むから!」
「…。」
綱部は涙を流しながら僕を見つめた。
「頭がバカになってるんだ。綱部、今日はもう帰れよ。」
「わかった。頭冷やす。今日はもう早退する。」
綱部はトボトボ歩きながら、教室に帰っていく。
なんであんなリレー小説でそこまでなるんだ。
軽い気持ちで書いていたんじゃないのか。
おかしいのは誰なのか。
僕はその日ノベル部にはいかなかった。
普通に怖くなったからだ。
僕はどうしたらいいのか。
このまま、黙っていたらどうにかなるのか。
「来てる。」
木曜日の朝、ノートは来ていた。
あれから16日経った。
僕はそれを受け取り、早速中身を見た。
「…。」
綱部や次丸先輩が松利晴大にした事が書いてある。映画デートのことも。いじめのことも事細かに。
これが昨日までの事。
今日は
僕はページを一枚めくった。
「なにこれ…。」
なんだ、これ。
そこのページにはおぞましくおびただしい文字で同じ言葉で書かれていた。