怖すぎる先輩
「はあ…。」
昼時、深いため息が出る。
「怜人。今日はお昼何買うの?」
「…。」
隣には笑顔の松利晴大。
なんでこんな奴と購買部で弁当を買わなきゃいけないのだ。
「なあ。お前こんなことされ続けるつもりかよ。」
「…。」
「話の中とは言え実際に暴行されて物壊されてんだぞ。積木先輩に辞めたいって言ったらどうだ?」
「…。」
「無視かよ。」
こんなボロボロになって、なにがしたいんだこいつ。
僕達がすぐ曲がった先にある購買部に行こうとした時だった。
「松利。」
「!」
僕と松利晴大が振り返ると、そこには次丸先輩が立っていた。
その鋭い目が僕達を捉えると、彼はゆっくり歩いてこっちへきた。
その無表情さに背筋が凍る。
「先輩、どうしました?」
僕が話しかけた瞬間
ゴッ!!!
ドサッ
松利晴大が腹を殴られ、崩れた。
その時の目は、話してる時の優しい顔ではない。
「何でお前が飯なんか食うんだよ。」
次丸先輩はそう一言怖い口調で話した。
「財布出せ。」
その迫力で松利晴大から財布を奪う。
その中から千円抜き取ると、その財布を床に捨てた。
「これで俺の分の弁当買ってこい。」
「…でも僕の分が。」
「誰がお前の分を買えと言った?俺の分だけでいいんだよ。」
「わかりました…。」
松利晴大は立ち上がってその千円を受け取る。
「ブレザー切ったの次丸先輩ですか?」
松利晴大は震えながら尋ねた。
「俺がやったって言う証拠なんかどこにある?」
「そんなつもりで言ったわけじゃないです…。」
僕は先輩に萎縮して何も出来なかった。
一人称も俺になってるし、まるで殺人鬼のような冷徹な目をしている。
これが彼のやりたかったことなのだろうか。
「次丸先輩。これどうぞ。」
松利晴大は弁当をおどおどしながら彼に差し出した。
「もっと高いの買えよ。」
「す、すみません。」
松利晴大が謝った瞬間。
パシッ!!
「!」
彼の頰に次丸先輩の素早いビンタが飛んできた。
僕が唖然としていると、次丸先輩はニヤッと笑ってその場を後にした。
「こっわ。」
緊張の糸がほぐれて、思わずそう呟いてしまった。
「…。」
松利晴大は殴られた頰を抑えながら俯いている。
「大丈夫か?」
「…。」
押し黙る松利晴大。
もう任務は終わったのか。
流石に少し可哀想に思えてきた。
「これやるよ。」
僕は何も言わない松利晴大の手首に弁当の袋をかけると、そこから立ち去った。
「はあ。」
教室にも戻りたくなくて、僕はまたある場所へと着いた。
「桃津先輩。」
「ん?また来たのか。」
桃津先輩はまたウサギ小屋の前にいた。
「もう嫌です。」
「なにが?」
「次丸先輩が暴力男になってしまいました。」
「は?」
僕は彼に今までの次丸先輩の思想と先ほどの話をした。
「へえー。あいつがそんな思想の持ち主だとはな。」
「あの綱部も次丸先輩も小説の内容通りに動き始めてるんですよ。躊躇もなく。」
「ふーん…。」
「ついていけないです。正直。」
「無視してお前が幸せになる内容書けばいいじゃねえか。」
「幸せですか…。」
「まあ、それだと全然面白くなくなると思うけどな。」
「…。」
「お前、あの松利晴大に同情して来たんだな。」
「そんなつもりないですよ。」
「自分は被害受けてないのに、松利晴大を助けたくなったんじゃねえの?」
「なんであんなやつ助けなきゃいけないんですか。それに、大人しくしてるあいつも頭おかしいですよ。」
「完全変態ってどういう意味なんだろうな。」
「え?ああ、松利晴大が言ってたことですか?」
「なんか、俺が客観的にみて思ったのは今の状況そのままなんじゃないかって思うんだよ。」
「どういう事です?」
「うーん、潜在能力を発揮させる的な?」
「意味わかんないですけど。」
「だから…いや、言わないでおく。」
「ええ?なんなんですかそれ!」
「まあ頑張れよ。」
「…。」
完全変態とは何なんだろうか。
意味は芋虫からさなぎを経過し、蝶になる様のことだ。
それはわかる。
だが、それがどうしたというのか。