終幕
リッドは女の背を見送った後、古い顔見知りに駆け寄るモニカに視線を移した。
数年ふたりで旅をしてきたものの、彼女に特別な感情はない。レオカディオ、というより呪いの仮面を手放してから、恐怖で表に出られなくなった『見世物』が居たり、うまいこと客が引けるのが見つからなかったり、そういう諸々で身売りさせられかけたときに庇ってもらったとか恩義があって付き合ってきただけだ。
たぶんモニカは、リッドを彼の代わりにして罪を償おうとしていたのだろう。もちろん役者不足だったけれど。
それに人前に出るのも嫌いだったし、動物らと旅もしたかった。
だから彼女のレオカディオに対する罪悪感とか失ったものが良く見える感情とかそういうのは好都合で、いろいろなところに付き合った。旅で仲が深まったというなら、モニカとでなく相棒のけものとだろう。
さて、そんなふうに旅をした結果、呪いに詳しい賢者という人間に辿りついた。
呪いからはいつだって、真実の愛で解放されるという。
おとぎ話じゃあるまいし、とリッドはまったく信じていなかったけれど、長いこと探し続けてくたくただったモニカはへんな宗教にでも嵌るみたいに信じ込んだ。自分がレオカディオに真実の愛を捧げて救い出すのだという。
教わってから現在レオカディオが住んでる場所を探す旅の最中、モニカはむかしのレオカディオの様子や妄想を話し続け、恋する乙女のふりをしていた。
たどり着いた国のその場所で、不幸な見世物になってるはずのレオカディオは、ものすごい美人に愛されて暮らしているようだった。これで解けてないならやっぱり嘘に違いない。
美人に追い返されて、リッドは「モニカが不幸にしたわけでないとわかったのだから」と思ったけれど、モニカはしつこく食い下がって無理やり奥に入ろうとした。
あとは知っての通り。
聞いてみれば、不審者はあのヒメナにご執心で、精神を病んでいたという。その不審者がレオを刺し、仮面が取れた。仮面はレオが死んだと思って外れたのだろうとリッドは思う。
けれど、もし愛が関係したのなら。
冗談みたいだけれど、ヒメナが仮面に真実の愛を捧げて、呪いに捕まっていたレオカディオが解放されたということなんだろう。
国への帰り道は予定通りきっと三人だ。荷物を負わせるかわいいけものを労わるように、リッドは白い毛並みを梳いてやった。