和光の空条承太郎
埼玉県民であれば周知のことであるが、春日部市と和光市はかなり遠い。鉄道が横に繋がらず、東と西で隔絶されている。同じ埼玉でも、東西南北で空気感はまるでちがう。
和光から春日部まで、車で一時間半はかかる。大半の労働者は県内から都内へ向けて電車で通勤しているのだから、奇異と捉えることもないのかもしれない。ただそこまでして、このブラック会社に勤める価値はまったくない。土日祝日完全休みと自転車通勤圏内というメリットがなければ、私はとっくに辞めている。板橋あたりに出れば、仕事はあるだろうに。世のなかには物好きもいる。
和光からかよってくるこの物好きを、私は空条承太郎と呼んでいる。クールなイケメンだからだ。私の持ち場の相方である。仕事は並、スタープラチナは出せそうにない。
空条は私の相方となるまえ、駄々目と同じ持ち場にいた。駄々目がえらそうに訓育している姿を、一度だけ見たことがある。それゆえか空条、駄々目会に誘われる。二度も。部署がちがうのに、いつのまに誘ったんだという問題がある。仕事はまったくできないのに、こういうことに関してはやけに手際がいい。
私は義憤に駆られた。駄々目会をどこでやるか? 棲息地の春日部だ。空条は和光に住んでいる。土曜の休みにわざわざ、春日部まで出てこいと。ふつうは、春日部の飲み会に和光の人間を誘わない。だって、かわいそうじゃない。休みの日に春日部まで出てきて、ドドリアさんそっくりのおっさんと飲む。なにがたのしいのか? なんという身勝手、自己評価も高すぎる。
「駄々目さんと飲んで、おれになんのメリットがあるんすか? デメリットしかないじゃないですか」
空条にそう言って拒絶するよう、勧めた。あと、
「おれと飲みたいなら、和光まで来て奢ってくださいよ」
と言っておけと。
「駄々目さんが和光まで来ても、行きませんけどね」
空条、さらりと毒を吐く。
この一件から私は、駄々目を見かぎったのだ。