チョビ
川底は、駄々目の「敵」のひとりである。ヒトラーみたいなチョビヒゲをはやしているので、通称「チョビ」。年齢は還暦手前、社歴は長い。ロマンスグレーもどき。趣味はホームパーティ主催やら料理やらギター。
仕事は駄々目ほどではないにしろ、できない。かつて駄々目と同じ部署にあって、いろいろあった。駄々目の殺すリストに入っているが、まだ生きている。
かいつまんで言うと、チョビは阿呆である。本人はインテリぶっているので、質がわるいタイプの阿呆である。朝礼で順繰りに一言を言わされるのだが、チョビのそれは長い。
「人として、社会人としてスキルアップできるよう、自己啓発に励みましょう」
レペゼン新興宗教、修行するぞ修行するぞみたいな感じ。「あるぜ教養!」みたいな感じでやっているが、教養ゼロ。
「最高学府出てるんだろ、一時停止くらい守れよ」
「ぼかぁ東大とか京大とかじゃなくて、そのへんの三流大卒なんですけど」
と返してやったが、ポカンとしていたくらいの阿呆である。
チョビは無類の女好きで、職場にいる女を見ればちょっかいを出す。仕事のまっさいちゅうに、パートの女性とくっちゃべっているのは日常茶飯事。料理のレシピを渡すと言って、そのメモの端に連絡先が書いてあったとか。
駄々目、ドドリアさんに見えて意外と正義漢だったりする。ある日、ついに怒りが爆発する。本人不在の休憩室で。
「おれは金払ってキャバクラ行ってんだよぉ。あいつはなんで金もらってキャバクラやってんだよぉ」
かっこいいように、かっこわるいことを平然と言う……そんな駄々目さん素敵と思っていた数日後、ある事実が判明する。
パートの女性と二十分ばかりたのしく会話したあと、十五分くらい休憩を取っていた駄々目! 班長が呆れながら言うのを聞いて、やっぱり駄々目さん不敵と思いなおしたのである。