鏡! 鏡!
パート事務員に、ドラえもんめいたずんぐりむっくりしたアラフィフがいる。小俣雅子ばりの滑舌のわるさ、ワイドサイズの態度。「影の所長」などと呼ばれている。
「あんな女、抱ける男の神経を疑うよ」
宴席の駄々目は言う。だけどたぶん、先方も同じことを思っているはず。駄々目はチョンガー、向こうには家庭がある。つまり、彼女を愛した男がいた。店の女を「おれの女」と言ってしまうイタイ男と、どちらが優位にあるのか。
「あいつを女だと思ってねえから。いや、あいつは人間じゃねえ」
破れ傘刀舟のようなセリフを吐く。たぶん、叩っきれやしないのだが。
「あいつは人間じゃねえ。ゲンゴロウだよ」
ドドリアさんみたいな自分の顔は、完全に棚上げしている。青い色眼鏡の地上げ屋スタイルがここのところの定番であるが、かっこいいと思っているのだろう。
みづから指定した時間より十分遅れで、タクシーで乗りつけてきた郊外のこの店。女の店員がいて、ねらっているのがバレバレ。土産に鯛焼きを買ってきて女に手わたすマメさ、私たちにはなんの土産もない。
「家畜に用はねえんだよ。人間のステージに上がってから物言えよぉ」
「あいつはあれじゃあ、女はついてこねえよ」
「あれは魑魅魍魎の類だよ」
「あいつは仕事できねえんだよ。おれには考えられねえ」
悪口悪口悪口。すべては、おのれに跳ねかえってくる。人間離れした容姿を具えた無能者であるという自覚がまったくない。最後にいたっては、自分が教育した新人への悪口である。そいつはひとつの持ち場をまかされてやっているわけだが、順当に考えたら駄々目がそこの責任者にならなければならない。けれど駄々目は固定の持ち場のない、宙ぶらりんの状態。駄々目にまかせられないから、そのお鉢が成長できなかった新人にまわってきたってだけの話である。
駄々目会。和光の承太郎が拒絶しているのは、まったく正解である。金の無駄、時間の空費。ダメ人間をなまあたたかい眼で見まもってたのしむ精神がなければ、耐えがたい拷問でしかないだろう。