官名詐称事件
まづは駄々目が入社したばかりのころの話をしよう。社歴は五年ばかりだから、その当時四十五。仕事ができないってことが、周知されてきたころのこと。入社したばかりだからもちろん、ぺーぺーの平社員。だけど駄々目は、主任になっていた。週末の夜の居酒屋で。
隣で呑んでいた見も知らぬ団体と、駄々目は意気投合。聞けば、団体は産廃処理業者。そこで駄々目は酒の勢い、口からでまかせる嗄れ声。
「主任やってる駄々目っていうんだよ。仕事が欲しかったら、いつでも来いよ」
週明け。駄々目主任の言葉を鵜呑みにした生真面目な業者営業が、会社を訪れる。
「駄々目主任はいらっしゃいますでしょうか?」
社長は面食らう。駄々目という年食った新人はいるが、主任にしたおぼえはない。会社をまちがっていないかと問えば、営業は社名を口にする。まちがいない。合っている。
そこで駄々目を呼びだし、事情聴取。駄々目、酒に溺れておぼえていない。くりかえす言い訳、それでいいわけ? 社長次長所長代わるがわる、長い長いお説教。
それからしばらく、渾名が「駄々目主任」になったことは言うまでもない。
これは伝説の、ほんの序章にすぎない。