知ってた?
「で、咲は何しにきたの?」
「コレを返そうと思って。ほい。」
持ってきた『ハジメテノユウシャ』を孝彦に渡した。
孝彦は一瞬「あれっ?」って疑問に思ったみたいだったけど、すぐに自分が貸した本だと分かったらしい。顔を明るくした。
「あー、そういえば貸したんだったね。どうだった?」
「クソだったよ。」
「やっぱりかー。ココに捨てられてた時点でなんとなく分かっちゃいたけど。」
吐き捨てるようにクソだったと即答してやれば「知ってた」と言わんばかりの満足顔で頷かれた。
ココに捨てられてたって、それ本当にゴミじゃんか・・・っていうかお前読んでなかったのかよ・・・!
「まぁ折角来たんだし、ゆっくりしていきなよ。もう本当に僕以外誰も居なくなっちゃったから。」
「ん。・・・あっ、そういえば管理人さんは?」
「あの人なら随分前から僕に鍵を渡して来なくなっちゃったよ?
もう年だったからかな、ここまで来るのが辛いんだって。来たところで誰も来ないし。」
「孝彦が管理人代理やってるってこと? なら、なんで明りつけないのさ。」
おかげで妙にビビッたじゃないか。
拗ねたように口を尖らせて聞くと、孝彦は困ったように頬をかきながら答えた。
「んー、それが・・・・・つけてたけど消えちゃったんだよ。
それで今、ブレーカー落ちたのかと思って確認してきたんだけど・・・・・。」
「・・・・・ブレーカーは落ちてなかった、と?」
「うん。多分、もう寿命なんだと思う。」
明りが消えてたのは、なんとも実にこの町らしい理由だった。
・・・なんか本当に気にして損したな。よく見たら孝彦は手に懐中電灯を持っている。そこまでして見たいのがあるんだろうか。
「なかなか無い状況だし、楽しもうと思ってさ。
明りになりそうな物ならそこの部屋の中にあったよ。」
孝彦は右奥の扉を指差しながら言った。
そうは言われても、どうしようか・・・目的を果たした以上もう帰ってもいいんだけど、帰ったところですることがないのも事実だしな・・・。
・・・確かになかなか無い状況だし、少しくらい探索してみようか。折角ここまで来たんだしね。
リアルホラーゲームみたいになりそうだけど、外はまだ朝だから明るいし、入り口の鍵がなぜか閉まって開かない、なんてこともないしね。気楽にやってみよう。
「わかった。ありがとね、孝彦。」
「ううん。じゃあ気をつけてね。」
孝彦は手を振って奥へと歩いていった。
さて、まずは明りを探さないとだ。さっそく行ってみよう。