民族資料館の住人
なんか微妙な言い回しかもしれません。
藤本市民族資料館、通称『藤本市図書館』は山の麓にある。
そこへ行くまでにも険しい坂道があり、わざわざここまで来ようする人間は少ない。
ただでさえ『民族資料館』という若者には需要がまるでないような建物に、更に追い討ちをかけるような問題が一つ。
ここ、資料館というか幽霊屋敷にしか見えないのだ。
例に漏れずここも老朽化していて、昔は珍しかったであろう洋館は、今ではただの古寂びた幽霊屋敷と成り果てていた。
山の麓に在るが故か、周りに聳え立つ立派な木々たちがボロボロになった洋館の外観にとてもよくマッチしていて、入ったら呪われそうだという印象をバッチリ与えてくれる。何を隠そう、この資料館はこの町で絶対に入りたくない建物ランキング第一位様だ。
とはいえ、目的の物好き様はこの中にいるはずだ。こんなとこ、さっさと漫画を渡して帰ろってしまおう。
重厚感溢れる扉を押し開けて中に入ると、まるで本にでも出てきそうなエントランスが広がった。外観はアレだけど、中は意外とマトモだったりするんだよね。
それでもかなりガタはきているので、ギシギシと鳴り響く床板に踏み抜いたりしないよね、と明りがついていない薄暗い館内を戦々恐々しながら先に進む。
(・・・・・・・・・・・・・ん・・・?)
でもほんの少し歩いたところで妙な違和感を感じた。
あれ、前来たときまでは管理人さんがここのソファに座っていたはずなんだけど。
今日はお休みなのかな? まぁ入場料があるわけでもないから別に・・・・・
(・・・・いや、やっぱりおかしい。
よく考えたら、鍵は開いてたのになんで明りが一個もついてないんだ?)
いくらこんな寂れた町でも、誰も居ないのに鍵を開けっ放しにするなんて真似はしない。
昨日鍵をかけ忘れたとか? いや、それもなんか違うような気がする。
(んーーー・・・・・・・・・・・・・・よし、帰ろう。)
なんか考えてたら背中の辺りがゾワゾワしてきた。これはきっと良くないサインだ。
うん、別に返すのは絶対今じゃなきゃダメってわけじゃないしね。帰ろう、すぐ帰ろう!
妙に嫌な予感が駆け巡り、グルッと勢いよく踵を返して扉に向かう。
そして扉に手をかけようとしたところで、誰かがポンと私の肩を叩いて耳元で囁いてきた。
「・・・・・・折角ここまで来たっていうのに、どこへ行くの?」
ヒッと喉から悲鳴にもならなかった声が漏れた。
ギギィ・・・と音を鳴らすように慎重に振り向くと、そこにはいい笑顔で片手をあげる男の姿が・・・。
「くくっ・・・どう、驚いた?」
「た、孝彦・・・・・? えっ? あれ?」
「いやー、相変わらず怖いのは苦手なんだね?
でも怯えずに入ってこれるようになったし、進歩はしてるよね。うん。」
「おっ、お前・・・ッ! 心臓止まるかと思ったぞ!?」
「やー、ごめんごめん。反応が面白くって、つい。」
「つい、じゃないでしょうが! はぁー、もう・・・驚いて損した・・・・・。」
まったく悪びれた様子を見せていない彼が仁岸 孝彦
この幽霊屋敷に入り浸っている物好きで、私が探して来た人だ。
仁岸 孝彦・・・天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(あめのにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎ)
通称ニニギが元。サクヤの夫で天津神、なんだよね? 詳しくは知らん。