歪んだ音
「世界には、綺麗な音が溢れているんだ」
そう言って、笑った君に連れ出されて
見つめた世界は、青く澄んでいたんだ。
―一緒に進もうよ。
そう言って、手を差し出した君に、私は何も言えなくて。
駄目なんだよ。
私は、何処にも往けないの。
此処で、貴方の『悲しみ』の音色を、聴いていなくちゃいけないから。
貴方の『悲しみ』は寂しがりだから。
私は、何処にも往けないの。
これから先、もっともっともっともっと。
貴方くらいに、大切な人に出逢うでしょう?
彼か、彼女か、人間なのかも解らないけれど。
『誰か』が悲しんでいたら、放っておけないでしょう?
『擦り傷』だったら、絆創膏を。
『骨折』だったら、包帯を。
私は、着けてあげなくちゃ。
独りぼっちは、寂しいから。
例え『歪んだ音』だとしても。
私はそれを聴いていなくちゃ。
たった独りで鳴り続けるのは、寂しいから。
開け放した窓から、貴方の『音』が聴こえるそれだけで。
貴方が今日も、幸せであるのだと思うから。
「大丈夫だよ」
歪んだ音はもう
聴こえない。
此処までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。