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Eクラスの最強魔法師  作者: 紙切虫
六夜スロウス
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第六話《六夜スロウスⅥ》

「よう、刹那岬」


「……せ、先輩っ!」


刹那岬は訓練中なのも忘れ、全力疾走で九々津のもとまで走る。

おお、と皆がある期待をこめ、それを見ているとーー。


「ぐっほぁ!?」


頭突きした。

尊敬するべき先輩に向かってなんたることか。

久々津は頭突かれた腹をかかえ、痛みに堪えるようにへたれこむ。


「おおお……」


「先輩のド馬鹿!」


「なんで俺は後輩にいきなり頭突かれて罵倒されてんだ……」


最悪である。

どんなに嫌われている先輩でも、出会い頭にいきなり頭突きはされないだろう。しかも鳩尾(みぞおち)。酷過ぎる。


「どうして此処にいるんですか先輩のド馬鹿ァァァ! 授業、ちゃんと受けろって私、言いましたよねェェェ!?」


「お、落ち着け刹那岬! じ、授業にはちゃんと出た……うお!?」


「【バイト】!」


「あぶなっ!」


まさかの魔法。ワニ顎を避けたものの、いつまた魔法を使ってくるのかわからない。

しかし、そうとうご立腹らしい。

九々津がどうやって機嫌をとるか考えていると、奥のほうから眼鏡を掛けた一年生が、他の生徒を押しのけ、九々津の前に立つ。


「……いくら先輩でも、授業妨害は迷惑です」


不機嫌さも露わに、抗議の声を久々津に言う一年生。

が、九々津は意にも介さず、ニッと笑ってみせた。


「妨害なんざしてねーよ。寧ろ、お前たち……ああいや、刹那岬にも本物の魔法を見せてやりたくてな。来週の魔獣討伐のチームを組もうと思って来たんだよ」


「だからと言って、授業中に誘いにくるコトはないでしょう」


「あいにく、俺は授業中じゃないんでね」


「……あまり僕を舐めない方がいいですよ、Eクラスの先輩?」


一年生の額に青筋が浮かび上がるのが分かった。

その一年生はAクラスの首席の《火賊徒(かそくと) 列郎(れろ)》という名前だ。二年生でも十二分に通用する魔力の持ち主だ。

有名なため、九々津も名前は知っている。が、臆した様子など微塵も感じられない。


「ん、まあそうかもな。つか、眠いし早く帰りたいから刹那岬と話させてくんねぇかな」


「お断りします。貴方みたいな不真面目極まりない人と話しては竜胆さんに悪影きょーー」


「さ せ て く れ な い か?」


一文字ずつ区切り、威圧する。

だが、それだけでは火賊徒は引き下がらないと悟ったのか、九々津はーー。


魔力を、全身から放った。


「ーーーーッ!?」


威圧。

威圧感では無く、威圧そのもの。

魔力の量が、尋常では無い。おそらく、火賊徒の魔力では足元にも及ばない。

訓練場が魔力の塊に覆われたかのようだ。あまりの魔力の量に、九々津の足元の空間が歪んでいる。


「おい、一年生。教えておいてやろうか」


カツッ。

九々津は一歩、火賊徒に近づく。

九々津は確かに背は高い方だが、今は巨人のような感覚だ。

カタカタと震える火賊徒の肩に手をおく。


「……実際に魔獣や犯罪魔法師と対峙したらな、お前みたいな真面目な奴は絶対に死ぬ。何故なら、理屈で考えようとしても、感情が入ってしまうからな。そういう中途半端なのはよしとけ。理屈で動くのか、感情で動くのか、はっきりさせておけよ」


ピンッ、と火賊徒の額に軽くデコピンをする。

が、九々津は行動こそふざけていたものの、眼は笑っていないし、何よりもその尋常ならざる魔力が冗談では無いことを物語っていた。


「あ、そうだ。おーい、刹那岬」


途端にフッ、と圧迫感が消える。

訓練場内に居たA、Cクラスの生徒たちが眼に見えて胸を撫で下ろしている。

おそらくは魔力を消したのであろう、九々津は眠そうにあくびをしながら刹那岬の名前を呼んだ。


「は、はい。なんですか、六夜先輩」


未だ恐怖去らずといった感じだろうか、震える声で答えた刹那岬。


「あのさぁ、魔獣討伐の一年と二年の合同実習だけど、俺とチーム組まないか? あれ確か二人一組だったろ」


「……へっ?」


魔獣討伐の合同実習。

それのチームだが、原則として二年生と二人一組のものだ。

刹那岬から九々津に頼もうとしていたのに、まさか九々津から申し出てくれるとは思わなかった。

刹那岬は高揚し、舞い上がるような感覚に陥った。


「ほ、本当ですかっ!?」


興奮のあまり、多少語尾が強くなってしまった。が、刹那岬は気付いた様子など無い。

離理倉はその様子を遠くからニヤついて眺めている。

教えるべきかどうか九々津は迷ったが、面倒なので黙っていた。そもそも何故、離理倉がニヤついているのかがわからない。

怠そうにしながら、手を振って訓練場から去ろうとする九々津。


「あ、先輩!」


「わーってる、わーってるよ。本当だ本当。俺は嘘つかねえ」


「そのセリフ事態、嘘なんですけど」


「おい待て刹那岬! それどういう意味!?」


「そのままです。そしてちゃんと授業は受けて下さい」


「それ俺が滅茶苦茶に嘘をつきまくってるって言いたいのか!? そして授業は出ない」


「出なさい!」


「嫌だね!」


そう言って、走り去って行く九々津。あの分ではおそらくまともに授業は受けそうに無い。

刹那岬はため息をついた。


「……でも、先輩とチームになれて良かったです。ふふっ……先輩……」


後日、九々津が後輩 (男子限定) から就寝中に襲撃されたのは、また別の話。

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