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Eクラスの最強魔法師  作者: 紙切虫
六夜スロウス
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第五話《六夜スロウスⅤ》

「……うへえ、竜胆さんかあ」


相手の男子生徒は戸惑った表情をした。

なんせ、相手が刹那岬なのだ。

Aクラスでもかなり優秀な魔法を持つうえに、刹那岬はかなりの美少女だ。

腰まである長い黒髪と、ワンピースタイプの対魔法制服が合わさり、美しさをさらに際立たせている。

そんな刹那岬が相手なのだ。

もしかしたらラッキースケベとかあったりしてー、なんて考えすら浮かばなくなる。


「……行きますよ」


訓練開始の合図とともに、離理倉の声援も飛んでくる。

が、それはすでに刹那岬の耳には届いていない。

男子生徒のもとまで疾駆し、間合いに入ると同時に魔法を起動。


「【バイト】!」


突き出された足ーー正確には膝から下のみーーがワニの顎へと変化する。

刹那岬の魔法ーー【アニマルソウルズ】。

動物の魂を、自らの肉体に憑依させる霊的な魔法である。

魔法には、九々津のような魔力をそのまま火や雷に変えるもの、刹那岬のような霊的なものなど様々なものがある。


「う、うわっ! うわわわわわ!」


ガチン、ガチンと噛み鳴らされる音に怯えつつ後退する男子生徒。そんな怯えなど気にせず、さらに速度を上げて変化させた右脚を振るう。

が、なかなか交わすのが上手く、当たらない。


「なら……【バインド】!」


右脚が元の、白肌に戻ると同時に、左腕が蛇へと変化。

それがしつこく男子生徒を追い、ついに捉える。

雁字搦めにされた男子生徒は、藻掻くが全く動けない。


「っ、こ、この……【リキッドマン】!」


ズルリ。

男子生徒の身体は制服ごと液体化し、蛇の拘束から抜ける。


「……っ、液体化ですか!」


シュルシュルと地面を這う姿はまるでナメクジだ。

が、刹那岬はすぐにナメクジ扱いしてしまってごめんなさい、と内心で謝った。

だが、見た目に反して中々に有効な手段ではあった。

刹那岬の魔法は、物理的なものだ。いかに動物の魂を憑依させると言っても、それは実体化する時点で霊では無くなるのだから。


「【リキッドエイジ】!」


ドロドロの液体が喋る、というのも奇妙だったが、そんなことを考える余裕は刹那岬には無かった。

おそらくは身体を凍らせ、氷柱(つらら)を飛ばして来ているのだろう、氷の針が無数に飛んでくる。

まさか自身を凍らせての攻撃は予想していなかったため、対処が遅れてしまう。文字通り、刺すような痛みが刹那岬の全身を襲う。


「うあああああっ!」


冷気があたりに漂う中、刹那岬はダメージが蓄積し、踏ん張っていた脚が耐えきれなくなって大きく後ろへ押される。

物理攻撃は効かず、なかなか近寄れない。

が、策はあった。


「【ガードナー】」


両手を胸の前で交差させ、亀の甲羅が肘を中心として、刹那岬の全身を覆うほどの大きさの鉄壁の盾を作り出す。

氷の針は、ことごとく弾かれてまったく効いていない。


「げえっ!?」


そのまま突進する刹那岬。

前は当然、甲羅が邪魔で見えていないがそれでもいい。

要は、範囲に入ればいいのだから。


「……【ボルト】!」


電気鰻(でんきうなぎ)、という体内で発電を行う鰻のソウルである。

白い雷をあらゆる方向へと放ち、それがリキッド状になっていた男子生徒にも命中する。


「あばばばばばばばば!」


自身が液体化していたため、電撃の威力が二倍になって襲い、奇怪な声をあげる男子生徒。たまらず、液体化を解くが、それを逃す刹那岬では無い。


「【バイト】!」


ワニ顎でガッチリと男子生徒をホールド。そのまま、変化させていない左脚を軸に回転し、ぶち投げた。

そこまでは良かった。

良かった、のだが、いかんせん投げた方向が悪かった。


「あ」


投げた方向が、運悪く破天荒な友人ーー離理倉の方向だった。

当然ながら、いきなり攻撃まがいのことをされた離理倉は慌てふためいた。


「に"ゃーーーーっ!?」


が、離理倉にぶち当たる寸前で男子生徒が止まった。

空中で、だが。

離理倉は片手を男子生徒に向けた状態で、げっそりしていた。


「あ……あぶねぇ〜」


「ご、ごめんなさい多々羅さん!」


咄嗟に謝る刹那岬。

が、離理倉はおどけた感じで、


「許さ〜ん!」


と、言って刹那岬を追いかけ出した。刹那岬は慌てて逃げようとして、足を止めた。

訓練場を揺るがすかと思うほどの、凄まじい爆音が、外から聞こえてきたからだ。

どうやらそれは気のせいでは無いらしく、他の生徒もざわざわとしていた。

数十秒後、再び爆音。

今度は比喩ではなく、本当に訓練場が揺れた。


「ひゃあああ! な、なになになになんなの!?」


「わ、わかりませんよ!」


慌ててあたりを縦横無尽に駆け回る離理倉と刹那岬。

さらに数秒後、突如としてガラリ、と訓練場の入口が開いた。


「おっす。刹那岬、いる?」


長い前髪が半ば眼を隠し、だらしなく着崩した制服。眠そうな眼。

やる気のなさそうな立ち方。


「……ろ、六夜先輩!?」


紛れもなく、九々津 六夜だった。


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