第四話《六夜スロウスⅣ》
場所は変わり、第一魔法訓練棟。
一年生ーー《竜胆 刹那岬》のクラスもまた、訓練中だった。
体育座りをする刹那岬の隣に、座るのは、友人である《離理倉 多々羅 (たたら)》。
遠いところをぼうっと見ていた刹那岬に喝を入れるように、その華奢な背中を叩く。
「よっ、竜胆さん! どったの、ボーッとして」
「ひゃっ!」
いきなり背中を叩かれ、素っ頓狂な声を挙げてしまった刹那岬。
慌てて振り向き、叩いたのが友人であったことを確認する。
「な、なんだ。多々羅さんですか。驚かさないで下さいよ」
「やーごめんごめん。普段真面目な竜胆さんがボーッとしてるのって珍しかったからさー。なんかあったの?」
言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子の無い離理倉に苦笑しながら、なんでもない、と答えた。
そしてまた、虚空を見つめてボーッとしだす。
「…………先輩……」
ピクリ。
耳ざとい離理倉は、そのため息に混じった一つの単語を聞き逃さなかった。
「ん〜? 竜胆さん、先輩とは誰のコトですかな?」
「え?……え!?」
一瞬、魔法を使ったのかと疑った刹那岬だが、離理倉の魔法は心を読むタイプのモノでは無いことを思い出し、ある一つの結論を出した。
「ま、まさか……口に出してましたか?」
恐る恐ると言った感じで、刹那岬は確認する。
それに対し、離理倉は大仰に頷いてみせた。
「うん。ガッツリと」
「うわああああああああん!」
顔を真っ赤に染め、泣き崩れる刹那岬。まさか、知らず知らずのうちに口にしているとは思わなかった。自分の迂闊さを呪う。
「……泣きたいです」
俯いてがっくりとうな垂れる刹那岬。それを見て、カラカラと乾いた笑いをする離理倉。
「まあまあ落ち込みなさんな。それでそれで? 先輩ってどの先輩? Aクラスの日々蔵 (ひひくら)先輩か? それとも、Bクラスの千堂先輩なのか?」
「あ、いえ……その……」
「じゃー、Sクラスの刃奇先輩かな? 竜胆さん、頭とか魔法とか出来る、っていう人が好きそうだもんねー」
「いえ……Eクラスの、先輩なんですよ」
「あ、やっぱり……って、え!?Eクラス!?」
はい、と小さく頷く刹那岬。
離理倉は大きな目をパチクリさせて驚きを隠せずにいる。
「……え、え? Eってどういうこと?」
「ああ、それはーー」
理由を言う前に、呼び出しがかかった。無論、刹那岬にだ。
あまり話したくは無かったので、内心でホッとする。
「すみません、私は訓練に行って来ますね」
「あ、ちょっ……」
問答無用だ。
今回ばかりは、訓練呼び出しが天の声に聞こえた。
ーーーーー
「……おっ、竜胆さんじゃん」
相手は同じAクラス。
が、刹那岬は知らない。
相手と対峙してなお、考えていたのは目の前の魔法師ではなく。
「(……先輩、ちゃんと授業出てくれてるかな)」
Eクラスの魔法師のことだった。