第三話《六夜スロウスⅢ》
「【ストーンヘンジ】」
男子生徒ーー《千堂 気柳》が右手を掲げると、空中に巨大な石製のブロックが現れる。
それを、思い切り九々津に投げつける。
「しょっ、っと」
九々津は、それを上半身のみを後ろに倒して交わす。目の前を風が撫でたが、気にしない。が、千堂はそれを予測していたのかすぐさま次のモーションに移る。
「弾けろっ!」
瞬間、石のブロックが爆散して欠片が九々津に飛んでくる。
だが、これも九々津はなんなく隙間を掻い潜る。
「くっ……【ストーンスタンプ】!」
「おっと」
空中からまた石製のブロック、いやハンマーが出現する。
それが九々津目掛けて落下してくるが、その場から飛びのく。
が、九々津に予想外の出来事が起こった。
「曲がれっ!」
なんと、地面に激突する寸前だった石のハンマーが方向転換し、再び九々津に向かってくる。
さすがに九々津も驚き、内心でさすがBクラスだと訂正をした。
しかし、このまま終わらない。
それが九々津だった。
「……ハッ、脆そうな石だ! 爆ぜろ、【花火】!」
「なっ……」
九々津が、左手から野球ボールほどの大きさの紅い球が生まれる。
それを、石製のハンマーに思い切り叩きつけた。瞬間ーー。
ハンマーは、爆発した。
そう。なんの比喩でもなく、粉々に爆発したのだ。
唖然とする千堂、眠そうな九々津、ニヤつくEクラスと微笑む陽見池、驚くB、Dクラス。
爆風の影響で、空へと投げ出された九々津。その眼は、青い空を見つめていた。
「……めんどくせ。これで終わりだ」
くるり、と回転しながら落下する。九々津が全身から炎を迸らせた瞬間に硬直した千堂だが、まだ魔法は起動していない。
全身の炎を、左手の手のひらのみに集め、潰した。
収縮した炎は、ビー玉ほどの大きさまで小さくなっているが炎の色は失われていない。
「【大花火】」
そのビー玉炎を、地面に叩きつけた瞬間。
特撮映画じみた、大爆発が千堂の真下から吹き上がる。
爆風と爆炎にもみくちゃにされて、空を舞う千堂。
「うおおおおおおおおお!?」
グシャリ。
叫び声をあげながら地面に落下し、千堂は気絶する。
とっ、と軽やかに地面に降り立った九々津は眠そうにあくびをする。
「……やっぱ、眠い」
九々津は、そのまま踵を返し、立ち去る。
そこで、教師はハッとなった。
「あ、おい! 待たんか九々津! 授業中だぞ!」
教師が言葉を紡ぎ終わるよりも先に、何処かへと立ち去ってしまったのか、九々津の姿は無かった。
「……ったく、あの問題児は」
カサリ。
一枚の紙切れを、教師はポケットから取り出して見つめた。
それは、九々津の成績表だった。
『数学:E 国語:E 社会:D 理科:C 技術:E 家庭科:E 』
そして。
最後に記載されていたのは。
『魔法:測定不能』