晩夏
ちょっと思いついたので書いてみました。往く夏を惜しみつつお読みください。
蝉時雨がアブラゼミのけたたましい鳴き声からツクツクボウシの少しおどけた鳴き声に変わり、夏の終わりを知らせる。空には入道雲の合間に羊雲がならび、さながら羊を従える牧童のような空になる。
─暑いな。なんでこんなあっついなか歩きまわっているんだろ?─
彼はこの暑い中、就職活動のため右へ左へと駆けずり回っていた。しかし成果は芳しくなく、受けるところ受けるところことごとく不合格となっていた。それでも彼は足取り重く、次の企業へと向かっていた。
─つぎは...っと。遠いなぁ。かんべんしてよ........─
自作の地図を見ながら彼は嘆く。それでも晩夏の太陽は容赦なく彼を照らし続けている。ふと見ると街路樹の根本に一匹のセミが転がっている。セミは動かない。どうやら寿命がつきたようだ。
─俺もそのうち........こうなるのかな?嫌だねぇ...─
しばらく、セミの死骸に見入っていた彼は落胆と失望の念を持たずにはいられなかった。未だ就職先が決まらず、街を生ける死体のようにうごめく自分と寿命尽きゴミのように転がるセミの死骸とが彼の中で重なる。
そんな彼の気持ちに呼応するように、空は陰り次第に重々しい蒼鉛色に覆われだした。すると、彼は空からしずくが落ちてくるのを感じた。突然の雨だった。
─ちっ.....。間の悪い─
彼は近くのビルの軒先に急いで雨宿りした。雨は次第ににひどくなり、数メートル先でさえ霞むぐらいになる。彼には自分の行く先と重なってしまい、気分が落ち込む。
─なんだか、自然にまで馬鹿にされている感じがする.......─
雨はまだ降っている。心なしか更に激しさを増しているようだった。街はすっかり鉛色に染められ、夏の色彩はすっかり色あせていた。雷もなりだし、時折薄紫色の光に街が染められる。街を行き交う車は水しぶきを上げ、彼の前を通り過ぎる。
─ふぅ、よく降るなぁ........。どうして、こう間の悪いことばかり起こるのかなぁ.........─
荒れ模様の天候と彼の境遇の重なり、彼は更に気が滅入る。雨はまだ激しく降っていた。することのなくなった彼は特に宛もなく、街を観察していた。色彩の無くなった街は彼の心の風景であった。行き交う人も途絶えた街は彼の心そのものだった。
─ん? 雨が..............─
突如、あれほどひどく降っていた雨が弱くなり始めた。それとともに雲が切れ、日の光が差し込んできた。街は失った色彩を取り戻し、鮮やかな夏の彩りを取り戻し始める。彼も彼の心にもわずかながらに色彩を取り戻したような気になる。
─さて、雨も上がるかな─
彼は雨が上がったばかりの夏色残る街へ歩き出していった。