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約束  作者: りっこ
終章 
99/111

真っ白の先、出会う二人

「また遊びに来るね!次はもっとあったかい服着てくるから、もっと長く遊ぼうね!」








おばあちゃんちから歩いて数分。夏にいとこたちと来たことがある。カブトムシを探そうって息巻いた男の子がいたっけ。そんなに大きな山じゃないけど、木がいっぱい生えてるところ。そこは今雪に埋め尽くされていて、私にはここが雪のお城のように思えた。


「わぁ…!」


少し入っただけで、雪雪雪…雪の世界。誰にも侵されることのない、真っ白の世界が広がる。ちょっと山に入っただけでこれなら…と、私は子供心に欲を抱いた。


もっと山の中に行けば、もっと綺麗な雪が積もってるかもしれない


そして奥へ奥へと足を進めた。


「…う、寒い…。」


なんだか雪がひどくなってきたような気がする。そろそろ引き返した方がいいかも…。おばあちゃんちを出てから結構時間が経った。抜け出したことがばれたかも。


あまりの寒さと変わらない景色に私の冒険心は折れかけていた。


とりあえず今日はもう帰って、コタツに入りたい。ご飯を食べてお風呂に入って、あったかい布団で眠るんだ。


おばあちゃんちを想像してしまえばもうアウト。気持ちは家を出た時から180度変わってしまう。


「よし!探検終わり!」


踵を返して愛しの防寒…いや、おばあちゃんちに帰ろうと意気込む。…が、数秒で足が止まる。


「…どこから来たんだっけ…?」


どこを見ても真っ白。木と地面の区別もつかない。いつのまにか雪は吹雪に変わり、私の視界を白に染めていた。


「寒い…」


自然の中に私だけ。私だけの世界。今まさにそんな状況。だけどひとつも嬉しくなかった。幼心に理解した。このままじゃ死ぬんだってこと。


吹雪く雪は小さな私の体を容赦なく凍らせ、徐々に動きづらくなる体に恐怖を覚える。


死にたくない…暖かいところに行きたい…!!


『それがきみの望み?』


どこからともなく声が聞こえた。その声からは感情は窺うことができない、ひどく冷たい声だった。それでも…


「…っうん!」


誰かいる。そのことが嬉しくて、私はすぐさま返事をした。この状況から抜け出せるなら。そう思って。








ぶわぁっ…


今まで体を凍らせていた冷気は去り、優しい温風が頬をなでる。一瞬にして寒さは消え去った。エアコンだってこんなに高性能じゃないのに。


体に血が巡る。どこもかしこもドクドクいってる。私、生きてる…。


今起こったこと、自分の体の反応、それにいっぱいいっぱいで、目の前にいる人の存在に気付くことはなかった。


「…迷子?」


話しかけられて初めてその存在に気付く。誰もいないと思っていたところに、ひっそりと立つ人。あまりに儚げで、すぐには気付けなかった。その人の存在を認識するのに数秒を要した。


「あ…うん!どこから来たかわからなくって…。」


人がいる。そのことに安心して、素直に答えた。

ところが、その人は何か深く考え込んでいるようだった。


「子供のお客さんか…珍しいな。」


「?」


「…いや、お家の方が心配している。山のふもとまで送って行くよ。」


差し延ばされた手があまりに暖かそうで、私は迷いもせずにその手をとった。なぜだかこの人を怪しいとは思わなかった。私が幼かったせいか、それともこの人の人柄なのか…。


「ありがとう!あなたはここで何をしていたの?」


警戒心など完全にない私は安心しきって、少し冷たいその人の手を握って言った。


「何って…ここが僕の家なんだよ。」


「?でもお家は見えないよ?」


キョロキョロと辺りを見渡す。そこは植物に埋め尽くされた場所。家なんて見当たらない。それに…さっきまで雪で真っ白だったのに、ここには雪はない。


「雪、ここは降らなかったの?」


「…そう、だね。ここには降らないのかもしれないね。」


「ふーん…?」


よくわからなかった。わからないなりに、ここは特別な場所なんだと、そう理解していた。


「ほら、あの二本の大きな木が見える?あの間を通って行けば、きみの家が見えてくるはずだよ。」


その人の言う通りに目を向ければ、確かに大きな木が互いにけん制し合うようにそびえたっている。


「ありがとう!!」


そう言って離した手。


大きな木の間に走って行った。早くおばあちゃんちに帰りたい。暖かい部屋でミカン食べるんだ。



私の足は止まった。木の間を超える前に、振り返る。


「ねえ!」


「…どうしたの?」


まだ私を見送っていたその人を見て、思った。この人って、ほっとけない人だなって。


どうしてそんな寂しい目をしているの?


私が一緒にいたら、そんな目しなくてすむようになるよ。一緒に遊ぼうよ。


楽しいこと、いっぱいしよう?


「また遊びに来るね!次はもっとあったかい服着てくるから、もっと長く遊ぼうね!」


相手の返事を待たずに背を向け、走り出す。私、きっとあの人に本当の笑顔をあげられる!なぜかそう確信して…。

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