表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束  作者: りっこ
終章 
96/111

一番近しい存在

「先輩がどんな決断してもいいよ?だけどね、一つだけ約束して。何があっても、何を思っても…俺にだけは言って。俺だけは連れてって。」








ユウマが出て来なくなって、どれくらい経ったっけ?


夏の合宿までは一応呼びかけに応えてくれたよね。それから…一切出て来ない。


どうしたいの?皆の力、私わかるよ。夏に比べてすごく強大になってる。きっと皆がそれぞれ努力してくれた結果。


皆の力を私に戻す。そしてもう一人の「ユウマ」に立ち向かう。それって…どうすればいいの?何度問いかけても、私の中のユウマは眠ったまんま。もう、私の中にいるのかもわかんない。気配が…ないんだもん。


もしかしたら、ユウマはもう出て来れないんじゃないかな。


それ程、弱ってるのかもしれない。


私は…私は「私」の力に気付いた。きっとユウマが考えていた「私」以上に、今の「私」は強い。きっと皆の力を吸収した私より、「私に気付いた私」は強い。


そう…私は、強い。









「もう冬だねー…。」


遙の吐く息が白くなって、そして空気に溶ける。やがてクリスマスという日本人にとっても一大イベントと呼んでいい一日がやってこようとしていた。


「…寒いね。」


正直それどころじゃなかった。ユウマの気配と反比例するように、ユウマによく似た…だけれどもとても禍々しい気配が日に日に強くなっていたから。


それはいつ?


それだけでもユウマに聞いておけばよかった。


それ。


…決戦の日。


私と、「ユウマ」が戦う日。


…ううん。ユウマだったもの?かな…。


「ほら、めっちゃ冷たくない?」


思案中の私のほっぺたを、ひんやりと冷たい遙の手が覆う。


「うっあ!!冷たい!!この…やめれ!!」


無邪気な遙の左頬に、外気によって冷たくなった自分の手を遠心力によって叩きつける。…まあ、要は殴ったってこと。


「…っいちいち先輩は手が出るね?」


「あんたが手ぇ出すからね?」


なんて心地いいんだろう。遙との日々は。


……だめだ、比べちゃった。


…玉木との日々と。


遙の快気祝い以降、気まずいままの玉木。…なんでこうなったんだろ。玉木と一緒にいるの、好きだったのになぁ…。もう、元には戻れないのかな…。


…なんて、考えてもしょうがない。私は、進まなきゃいけない。一人で、進むしかない。


「ねえ、先輩?」


「…ん?」


やばい、また考え事してた。冬が深まるにつれて、私の意識はユウマに支配されていた。…ううん、ユウマと…玉木のこと。それ圧倒的に天秤傾くでしょ?と問われても、私にとっての玉木との時間は、ユウマのそれとどうやら釣り合うらしい。それほどまでに大事な存在…ってことに最近になって気付いた。


「そろそろでしょ?」


「は?何が?」


何気なく言った遙の一言。何気なさ過ぎてアホな私は、クリスマス?それとも年越し?とか…安易に考えていた。


「何がって…ユウマだよ。」


あ…


遙って不思議。からかい口調だとしても、目を見ればどれだけ真剣なのかわかる。…だったら口調も真剣なそれにしてしまえばいいのに…と思ったけど、これが遙の気の遣い方…基、遙そのものだったと思い直す。


「そう…だね。」


曖昧な返事しかできない。だって私もそれがいつかわからないもん。その時期をユウマが教えてくれるのか、はたまた向こうから勝手にやってくるのかさえわからない。私は…ユウマが応えてくれなきゃ何もわからないんだ。


「近いかもしんないねー。」


適当に言う。…だってわかんない。若干投げやりに聞こえたかも。…だって、わかんないもん。


「ふーん。じゃあさ、先輩が解放される日も近いね。」


なんて、遙が笑う。


解放?何から?


ユウマから?…力から?


「…うん。」


とだけ、言葉にする。何もわからない。問題の本質さえ知らないのに…そんな私が簡単に頷いちゃいけないのに、頷くことしかできなかった。


「先輩?」


「…ん?」




「先輩がどんな決断してもいいよ?だけどね、一つだけ約束して。何があっても、何を思っても…俺にだけは言って。俺だけは連れてって。」


今度は違う。目は勿論、口調だって真剣そのものの遙。これが遙の気持ち。ありがたい。でも…胸が痛む。その気持ちに応えられないから?だから、痛い?


…わからない。


「私のこと、一番わかってるのは遙だよ。…多分。」


そう。遙は私に一番近い存在だと思う。きっと私の気持ちや境遇を一番に理解してくれるのは遙なんだと思う。だから、答えない。遙の願いにちゃんとした答えを出さない。だって…わかるでしょ?


私が「私」を演じてること、一番わかってるのは遙でしょ?


「それさぁ、多分じゃないよ?そこは確定でいい。俺自覚してるもん。先輩の一番の理解者は俺だってさ。…やっぱりいいや。言わなくていい。俺は俺で先輩を見てるからさ。自由にやってよ。連れてってじゃないね。勝手についてくから。」


なんて、屈託のない笑顔で言われちゃ…何も言い返せないよ。


遙の存在に、どれだけ救われてるかわからない。


どれだけ私の気持ちを楽にしてくれてるか…きっと気付いてないでしょ?


感謝してもしきれない程、あなたに…皆にありがとうの気持ちでいっぱいだよ。


そして私は…






今日も夢を見る。


昔の…遠い日の夢を。



今日こそは、真実に繋がるかしら?


遠くで誰かの歌う声が―――――………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ