真実の一片
「……ん。ありがとう。遙。」
無理をしていたんだろう。
遙の顔色は決してよくない。
私が…無理をさせてしまったんだ。
「そっか…。私の、力のせいなんだ…。」
呟くことしかできなかった。遙の言葉には説得力があった。きっと今までユウマから力を授かった人にはできなかったことが、私にはできる。私は人を…人間を傷つけることができる。それはユウマの力とは別個のもの。人を好むユウマにそぐわない力。それを使うことのできる私。
私はユウマとは違う力を持っている。
それがすべてを引き起こしたんだ。
妙に納得がいった。私=ユウマではない。私は私。ユウマはユウマ。それぞれの力を持つ個体。
…合点がいった。
なんだろう…事実がストンと私の中に落ちたみたい。
納得せざるを得ない。
「そっか…。」
そう自覚をした途端、体の中にユウマとは違う、別の力を感じた。今まで感じたことのない、確かなもの。
ユウマの力を借りる時はいつだってユウマの存在があって、その力を借りることができた。
でも今は…
今は感じないユウマの力。それでも私の中に確かに存在する力。それは誰かに頼るものではなく、私自身が発する力。
「遙、教えてくれてありがとう。」
素直にそう思えた。遙のおかげで、私は私を知ることができた。いろんな心の葛藤は抑えられない。それでも…遙の前ではそれを出さずにいられそうな自分に、誇りさえ感じる。
遙の語ったことはほんの少しの事実かもしれない。ただの憶測かも。…それでも事実の一部分を知れたのだと思う。そこに違和感はなかったから。このことはマイナスではない。…決して。
「先輩?」
一瞬にして私の心は決まった。でも、それを悟らせてはいけない。遙は人の気持ちに敏感だ。だから細心の注意を払ったつもりだった。それでも…彼は私を怪訝な表情で見た。その後に眉根を寄せた彼が発した言葉は、私を気遣うものだった。
「ユウマが先輩を選んだ理由が何であっても、俺は先輩についてく。傍にいて守る。絶対離れない。絶対一緒にいる。何が何でも。何があっても。…これは俺の意志だ。先輩にあーだこーだ言われたって俺の意志は変わらない。そこは理解して欲しい。先輩を守りたいという俺の意志は、誰からも影響を受けるものじゃないから。例え先輩自身が俺を拒んでも、俺の意志を変えることはできない。誰にも干渉させない。これは、俺が決めたことだから。俺が俺自身で決めたことだから。」
…きっと遙にはわかってるんだろう。私がどう思うかなんて。私の力のせいで皆を巻き込んで、そのことに私がどれだけ傷つくか…彼には想像できたんだろうな。だから、私がこれからとる行動を予見して、こんなことを言うんだろう。
「……ん。ありがとう。遙。」
笑顔を向ける。
遙の気持ちは素直に嬉しい。こんなに慕ってくれて、想ってくれて…ありがとう。私と遙の立場が逆でも、私は遙に同じことを言ったと思うよ。だって、すごく大切な人だから。
でも…
すごく大切だから
だから
巻き込みたくない
傷つけたくない
平穏無事な生活をしてほしい
大好きだから
毎日に笑って
生きて欲しい…
そう、思うんだ。
ごめん、遙…。
「うん、ありがとう。頼りにしてるよ!」
そう伝えると、私は感じ始めたばかりの自分自身の力に神経を集中させた。
「う…わ!?…これ、先輩?」
遙の全身を包む微かな光。自分にまとわりつく光に戸惑いながら、遙は私を見た。
安心させるように頷く、
「とりあえずあんたは体を治して。今のままじゃ頼り甲斐がないったら。すぐに病院送りにしてあげる。…ありがとう。本当に。…ありがとう。」
憎まれ口は最後まで続かなかった。最後には…本心が溢れ出た。私を大事にしてくれてありがとう。大切に想ってくれてありがとう。…好きになってくれて、ありがとう。
数々のありがとうが生まれる。
でも怪しまれちゃいけない。
私の気持ちは決まった。もう…迷うことはないだろう。それが望んでない結末でも。もう…迷うことはない。
何か言いたげな遙を無理矢理病院へと強制送還させた。視界から遙が消える。
自身の力を意識した途端に、力の解放が楽になった。もはや力は私そのもの。自分と力を引き離して考えることは難しかった。
「…そうか、こんなにも近くに、私はいたんだ…。」
今日気付かされた自分の新しい姿を目の当たりにして、決心はついたものの、どうしても割り切れずにいた。
何故私じゃなくてはいけなかったのか?何故、ユウマと出会ってしまったのか?何故、大切な人を巻き込むことになったのか?何故、何故、何故…
その問いの答えは…期待してはいけない。それよりも、私には考えなければいけないことがある。どうすれば皆を巻き込まずにユウマを殺せるか。迫る期日に向かい、考えをまとめなければいけない。私のとる行動一つで、全ては変わるのだから…。