ハナゲイダーの真実(ダブルミーニング)
ハナゲイダーの病室は個室で、ベージュのカーテンの奥には包帯でぐるぐる巻きのハナゲイダーが寝ていた。
その包帯の量に驚く。
こんなにひどかったんだ…血は確かに大量に出てた気もするけどここまでとは…。
ハナゲイダーの体にはいたるところに包帯(見えてるところは腕と首もとだけど多分全身だと思う)、そして頭にも…。
私たちの気配に気付いたハナゲイダーはだるそうに目を開けた。
私の姿を確認すると小さな目をカッと見開いた。
「し、白田!!」
私は思わず一歩後退ると、それを庇うように玉木が私とハナゲイダーの間に入ってくれた。…感謝。
「玉木…春日…。…龍塚先生?」
ともちんがいることまでは予想がついたようだが、龍塚先生を見つけると驚いたようだ。
「花田先生、正直に話してください。セクハラ…」
「白田!!すまなかった!!自分でもなぜあんなことをしてしまったのかわからないんだ…」
ハナゲイダーは若干目を潤ませてうなだれる。…嘘ついてるようには見えない。
ともちんはハナゲイダーによってブロックされた言葉を続けることにしたようで、一歩ベッドに近づいた。
「以前から女子生徒に対してセクハラをしてるらしいじゃないですか?茜とは別の子からも話を聞いてますよ。」
ともちん何言ってるんだろ?そんな話誰からも聞いてないし、そもそも他に被害者はいないって言ったのはともちんなのに。
ハナゲイダーはあと少しで目ん玉が落ちるんじゃないの?ってくらい目を見開いて、さらに口もあんぐりと開けた。
「そんなはずはない!!俺は何もしていない!!」
「正直に話してく…」
多分ともちんは切り札を使って(謹慎処分への妥協案)話をさせるつもりだったんだろう。
しかしハナゲイダーの発した言葉があまりに衝撃的過ぎて私たちはフリーズしてしまった。
「俺は男にしか興味がないんだ!!!」
…はい?
多分無意識だろう。私の前にいた玉木が後退った。危うく足を踏まれるところだった…じゃなくて、ぇえ!?
「…は?」
ともちんが引きつった顔を隠しきれずに聞き返した。
ハナゲイダーは自分が大きな声でカミングアウトしてしまったことに気付き、先程とは違い、俯き加減でモゴモゴと続ける。
「俺は男しか愛せない…ゲイなんだ…。だから女子生徒にセクハラとか絶対しない。何せ…興味がないから。だから病院で目覚めた時、自分でもわけがわからなかった。なぜ白田にあんなことをしてしまったのか…本当にわからないんだ…。」
しゅん…とうなだれるハナゲイダー。今の話、マジっすか?
その場にいる全員が戸惑いを隠せない。だって、ゲイならなんであんなこと…解せないのだ。
「自分でもわからないの?今の話が本当だとして…ていうか嘘じゃないわよね?」
あまりの衝撃で敬語を忘れたともちん。
玉木は私の後ろに回った。ちょ、ひどくない?いやまあこれがほんとなら一番身の危険を感じるのはあんただろうけど。
「嘘なんかじゃない!!!その証拠に俺の部屋のエロ本は全部そっち系だ!!!」
胸を張って、こちらとしては知りたくもないことを言うハナゲイダー。
多分、ほんとのことだと思うんだけど…じゃあなぜ私は襲われたんだろう?
わからないことが増えてしまった。
「…今の話、信じていいんですね?」
ともちんが念を押す。
ゲイダー(ハナゲイダーのあだ名、ダブルの意味があったんだ…こっちのが衝撃的だったので短縮しちゃえ)は深く頷く。
「白田、ほんとにすまなかったな…怖い思いさせて…」
いや、別に勝てることわかってたし怖くはなかったよ。ただものすごく気持ち悪かっ…ん?勝てることわかってた?なんでそう思ったんだろ?
「…帰ろ。失礼します。」
ともちんはさっさと踵を返す。
私たちは慌てて後を追って病室を出た。