観覧車の中
「ユウマが先輩を選んだ理由。」
ぐらぐらと揺れる。観覧車。ぐらぐらと揺れる。頭の中。どうしてこんなことになったんだろう。
遙の腕の力は一向に緩む気配を見せない。
「やめ…っふ…」
私の抵抗なんか無意味だってわかってる。力で敵うわけがない。それでも抵抗せずにはいられない。抵抗を止めたら、受け入れたことになるから。
「ちょ…いい加減にしてよ!!」
遙の唇が離れる。やっとまともに言葉を発することができた。精一杯の虚勢で遙を睨みつける。
「嫌だ。やめない。」
「何バカなこと言って…っんん!!」
何度も何度も奪われる。獣が獲物を食べるように。
「抵抗していいよ。でも力、出ないでしょ?」
「はぁ…はぁ…ふっざけんな!!あんたなんか一捻りで…」
「ユウマの力は取り憑かれてもいない人間には使えないよ。だから先輩は先輩として俺に抵抗するしかないんだ。…無力だよね。」
遙が笑う。…違う。笑ってない。顔が歪んだだけ。遙の笑顔はこんなんじゃない。
誰これ?
こんな人知らない。
遙は一体どこに行ったの?
「諦めて全部俺に任せなよ。大丈夫。ちゃんと愛してあげるから…」
遙の唇が再び私を喰らう。そして私の動きを封じ込めていた手が私の体をなぞり始めた。
…嫌。
……嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!!!
「っ嫌ーーーーー!!!」
それは一瞬のことだった。体の奥の奥の…ずっと奥にある小さな扉が開いた気がした。今まで鍵がかかっていて、存在さえ知られていなかった扉。その扉が開くと、その中から今まで感じたことのない力が溢れだした。
「!?」
ガシャーーーーンッガタガタ!!!!
遙の体が吹っ飛び、観覧車の窓の部分に思いっきり体を打ち付けた。その音に我に返る。私…何して…?
「遙っ!!大丈夫!?」
「カハッ…ゲホ…て、手加減してよね…。」
ぐったりした遙の側に寄る。窓にはヒビが…もしかしてすごい怪我なのかもしれない…と思ったけど、意外と平気そうだった。その様子に安堵する。
「ごめ…いや、あんたが変なことするからでしょ!!自業自得だっての!!」
遙の頭を小突く。と言っても本気で叩いたわけじゃない。遙にされたことは許せないけど、私のせいで起き上がれない遙に追い打ちをかけることはできない。
「ふっ、言い返せないや。でも…これではっきりした。」
「は?何が?」
「ユウマが先輩を選んだ理由。」
「…は?」
遙が真剣な目で私を見てくる。ユウマが私を選んだ理由って…たまたまそこに私がいたからじゃないの?
「どういうこと?…ねえ、遙。……遙?」
遙の瞼は閉じたまま、ぴくりとも動かない。
「…遙、冗談やめてよ。さすがの私も怒るよ?」
反応は…ない。赤、青、ピンク、黄色、緑。人工的な光が遙の顔を照らす。顔色なんてわからない。わからないはずなのに、遙の顔から血の気が失せていくのが見えた。
「遙…遙!!」