初めての…
キスしちゃってます。
そんなにエロスじゃないですが、
苦手な方はご遠慮ください(-_-;)
「遙…大丈夫。大丈夫だから。」
早々と夏休みの課題を終えた私達は、龍太が提供してくれたこのありえない場所で残りの夏休みを過ごすこととなった。
親をどう説得したのか聞いてみたいわ…なんでもありだな、この連中…。
とにかく、私達はそれぞれ自分の力を高めるための修行に取り組んだり、疲れたら龍太の施設で思い思いに遊んだりした。
基本的にみんなでというよりは、それぞれ個別の力を発揮したい…そういう想いがあったから、がっつりみんなで遊ぶということはとりあえずなかった。
なかったんだけど…。
「約束、しましたよね?」
遙の黒い笑顔が私の前に立ち塞がる。…約束したけどさ、この状況だよ?本当にデートするとか思わないし、個人の感情なんて後回しになるものじゃないの?
なんていう…至極まっとうなことを言ったとしても、遙は折れなかった。
「こんなに近くにデートスポットがあるのに?それに俺の力も見て欲しいし、この場所は一石二鳥だよ。ただ単にデートするってわけじゃないしね」
なんてうまくいいくるめられた気はしたんだけど。
それでも…私は彼に応えなければいけない。求められたんだ。自分の気持ちがはっきりしている以上、変な期待を持たせるわけにはいかない。
夏合宿(?)中、意を決して私は遙の誘いに乗ることにした。勿論、誰にも言わずに。
もし他の誰かに漏れれば、気を使わせるに決まってるし。こういうことは知らない間に解決した方が周りに与える影響を考えても、その方がいいに決まってるから…。
みんなが修行だなんだと言っている最中、私は遙とでかけた。別荘を出た瞬間繋がれた手…そして遙の満面の笑み。それに心が痛む。私は…遙の気持ちに応えられない。それを伝えるための今日だというのに…。
「先輩、あれ乗ろう!俺あんな急降下初めてかも…挑戦してみなくては…!!」
「何そのチャレンジ精神!?よし、男に二言はないね?乗ろう!乗りまくろう!」
いつになくノリノリの遙。私もつられてテンションが上がる。…まあ私の場合、もともとこういう場所は嫌いじゃないので。
そうして朝から晩まで遙と過ごした。少し離れた場所には仲間たちがいる。自分の力を高めようと頑張っている中で…私はそれでも遙と一緒にいることを選んだんだ。罪悪感がないわけじゃない。だけど…それでもはっきりさせなきゃいけないことだと思ったから。
「おぉ…めっちゃ綺麗。先輩も見てみなよ。」
夜の観覧車…。それはまさにカップルのためにあるかのように、綺麗な夜景を窓越しに見せてくれる。ここが一つの島だなんて忘れてしまう程に、綺麗な光は際限なく伸びている。地が終われば海がその影を引き継ぐ。そうして私の目の前に広がる夜景。こんなものを見れるなんて…。
言葉を失くした。
まさかこの私が…景色に魅入られるなんて。三度の飯より好きなものはないこの私が。
「…綺麗。」
まるで時が止まったかのようだった。…このまま止まってしまえば、それはそれでとても幸せなことだと思う。
向かい合わせに座った遙が私に微笑む。…今まで見たことのないような遙がそこにいた。
「…ごめん、先輩。俺、やっぱりどうしても俺を「俺」として見てほしかったんだ。」
遙の笑顔に気を取られている中で、わけのわからないことを当の本人が口にした。
「…は?」
こいつバカか?という視線を送る。気付いてもらえただろうか?頭が悪い私にはなかなかうまい言葉が浮かばない。態度と表情で言わんとすることを受け止めてもらうしかない。特に遙は…遙は、周りの空気にとても敏感だ。今まで祖母という霊と生を共にしていたわけだし、普通の人よりか感覚が鋭いのだと思う。
そう思っていたのに…遙は私の視線などおかまいなしに話を続ける。
「はっきり言うよ。俺…この件に関して、先輩は手を引くべきだと思う。」
「…は?」
今更何を言っているんだ?私が手を引くわけにはいかないじゃないか。言ってみれば当事者だよ、私。私がみんなを巻き込んだ張本人だ。そんな私が今更何を止めると言うんだ…。
「先輩の手に余る。ユウマは…多分先輩が想像している以上の存在だよ。そんな相手を殺すとなると…先輩だって無事じゃ済まない…。」
…なんだ、そんなことか。
「覚悟してるよ?全ては私がユウマと出会ったことから始まってる。始まりが私なら、終わらせるのだって私だから…絶対やりきってみせ…」
「嫌なんだよ!!」
遙の顔が苦痛に歪む。それと同時に私の体は狭い空間の中でグイッと引き寄せられた。
突然のことで自分の体がすっぽりと遙の胸に収まる。抗うことなどできなかった。
「先輩…茜さんが、傷つくのは見たくない。俺に…「俺」を教えてくれた人だから…失いたくないんだ…」
すぐさまはねのけようとした。遙の気持ちに応えられない以上、こんな事態は避けるべきだ。だけど…だけど、遙の手が震えてたから。まるで差し伸べられた手に縋る、子犬のようだったから…。
「遙…ありがとう。…ありがとう。でもね?私は、みんながいるからこの決断ができたんだよ?これは…私の業なんだ。やらなきゃいけないことだから…。それに巻き込んだことは謝るよ。」
きつい程に遙の腕は私の自由を奪う。どうしてこの子は…こんなにも怯えているんだろう?私のために…怯えているんだろうか?
ならばその不安を除去したかった。お前が怯えることはない、と。
震える遙の体を強く抱き締める。こうすることで、少しでも彼の不安を軽くできたらいい。私のために…彼の心が沈むなんて嫌だから。
「遙…大丈夫。大丈夫だから。」
言い聞かせるように、背中を擦る。私のことを心配してくれている…その事実が嬉しくもあり、それが彼を悲しませているのなら悪い気もする。そんな相反する気持ちをうやむやにするように…私は彼を抱きしめた。
「…っ!!」
「え…っふっ!?」
…何が起きたの?何が起きているの?
柔かく湿った何かが唇に当たる。それが遙の唇だとわかるまでに、それほど時を要さなかった。
ドンドン…!!
急過ぎて、展開についていけない。それでも遙の唇から逃れるために、精一杯の力をだした。ありったけの力を振り絞って遙の胸を叩く。
(バカじゃないの!?何…すんの!?)
口を開けるなら、いくらでも彼を罵倒する言葉が出て来る。でも…そこを塞がれた今、私に抗う術はない。
「…ふっ…んんぅ…っ!?」
頑なに閉じていた唇を、遙が強引にこじ開けてくる。
生温かいものが、私の口内を犯す。
これは一体誰?
私は信じられなかった。仲間と信じた人が…こんなことをするだなんて。
誰が信じられる…?