雅史の優しさ
「いや…お前も苦労するなと思って。なんだ…あー…あれだ。利用できるものは全て利用しろ。変に罪悪感とか感じてる暇はないんだからな。」
追試を控えたこの身…スパルタ教師に囲まれることとなりました。
「お前は…アホなのか?いや、ここまでくるとアホ以前の問題だ…。」
雅史のイヤミが耳に響く。イヤミっていうより本音?…なお嫌だ。
英語は悠斗、化学はともちん、数学は雅史が教えてくれることになった。国語と歴史は暗記で頑張れって丸投げされたんだけど…不安だ。
とにかく今日は一番やばい数学のお勉強の日。…雅史さんのため息が耳に痛いです。
「なんっでこうなる?初歩の初歩だ。この公式を当てはめればいいだけじゃないか。」
…その公式がわかりません。公式のαとかに、問題文のどの数値をあてはめればいいのか…とかさ。ちんぷんかんぷんなんです。
「…………数をこなすしかないか。」
呆れ気味の雅史だけど、ちゃんと付き合ってくれる。…しっかりしなくちゃ。私のためにやってくれてるんだもん。数字見たら眠くなる…とか言ってる場合じゃないよね…。
「……お?こうか?これで…こうだ!!」
「…やっとか。そういうことだ。」
雅史が根気よく勉強をみてくれたおかげで、少しだけ公式の当てはめ方がわかってきた。よっし!なんとなく理解できた気がする!
「じゃあこっちの問題やってみるね!」
解けるとおもしろいものだな。いつもは考える前に睡魔に襲われてわけわかんないもんな。
「……ん?これは…違うよね?βってなんだ?これ何の話だ?」
「お前は…見せてみろ。」
「う、ごめん…。」
雅史は私から問題集を取り上げると、ルーズリーフにすらすらと数式を書き綴って行った。…一度も迷うことなく。
「………マジか。すごいね、雅史…。」
「当然だ。お前…授業中何を学んでる?」
「…返す言葉もありません…。」
こんな調子で雅史との勉強会が進んでいく。無駄口が一切なく、時間が過ぎるのがやたら遅い。
「……………。」
「………お前、寝てただろ。」
「っは!?いやいやいや、何を言ってるんですか!めっちゃ起きてますよ!?」
「完璧落ちてただろう。」
「…すいません。」
雅史がため息とともに眼鏡を外し、眉間を片手で押さえる。完全に呆れられちゃったかも…やばい。
「お前、今回の追試な…悠斗に感謝しろよ。」
「え?」
「追試交渉、悠斗だろう?」
「あ、うん。…そういや、なんでモッチーはすんなり追試OKしたんだろ…?」
「だから感謝しろって。持田の弱みを握ってたんだよ。」
雅史が不穏な言葉を口にして少なからず驚く。…弱みって。
「めっちゃ気になる…何それ?」
雅史はげんなりした表情で再び眼鏡をかけた。
「あれ、持田のキャラな…作り物なんだよ。」
「………え?」
「あの年で素であのキャラの方がおかしいだろう。計算だ。そしてまんまと成瀬を手玉にとっている。」
「………は?」
マジで目が覚めた。何何?人の恋路とか勝手にすればって思うけど、この話は面白すぎる!!
「あれ作ってるの!?すっご…まんまと騙された…。」
「騙される方が稀だろう。しかも成瀬以外にも男がいる。悠斗はある情報網からそれを掴んで、今回持田を強請ったんだ。」
強請るって…穏やかじゃないな。でも悠斗のおかげで私に夏休みがもらえるかもしれないんだよね…。悠斗に足向けて寝れない。
「すごいね…モッチー。悠斗もどこでそんな情報を…。」
「それは聞いてやるな。いろいろあるんだろう。」
眼鏡の奥の雅史の目が怪しく光った気がした。…気になるけど聞かないでおこう。うん。
「無駄口はここまでだ。集中しろ。」
「…はい、先生。」
今の話で眠気がどこかに吹っ飛んだ。今度はちゃんと眠気に打ち勝って勉強しよう。じゃないと、悠斗にも雅史にも申し訳が立たないもんね。
両手で頬を景気よく叩いていると、雅史から向けられる視線に気付く。
「?何?…あ、もう寝ない!大丈夫!!」
「いや…お前も苦労するなと思って。なんだ…あー…あれだ。利用できるものは全て利用しろ。変に罪悪感とか感じてる暇はないんだからな。」
「うん?おー…?ごめん、何の話だ?」
雅史の言わんとすることが理解できません。罪悪感?利用?あ、これ?追試対策で皆が教師になってくれること?
「勉強みてくれることに対しては本当にありがとうと思ってるよ。私に時間割いてくれてごめんって…」
「そうじゃなくてだな…あー…いい。とりあえずこの問題解け。」
ぐしゃぐしゃと髪をかいた雅史。…?何が言いたかったんだろう?そんな私の疑問は解決することなく、今は新しい問題に頭がいっぱいになるのでした。