ハナゲイダーの元へ、いざゆかん!
HRが終わり、ともちんと玉木と共に保健室へ向かう。
「失礼します」
ストーブのおかげで保健室の中は温かく、私は即座にその真ん前に陣取った。
突然の訪問者にもちろん慣れている龍塚先生は、私たちをちらっと見ると緊急性がないと判断したのか、視線を今まで扱っていたパソコンへと移す。
「なんか用かー?」
「たっつんに折り入ってお願いがあんだけど…」
「却下。」
玉木の猫なで声を即座に切る。うーん、さすが。
「ちょ、聞くだけ聞いてよ!!」
「お前の話にろくな話はない。」
ぴしゃりと言い放つ。この二人仲いいな。
「チッ…使えねー」
ともちんの低い声が玉木を打ち落とす。ほんとやられキャラだ。ぷぷ。
「単刀直入に言います。花田先生の入院先を教えてください。」
龍塚先生の作業の手が止まり、視線をともちんに移す。
「…何をするつもりだ?」
「確かめたいことがあって。別に茜の仇討ちとかじゃないですよ。」
「生徒にそんなこと教えると思うのか?」
…ゴクリ。KYな私にもわかる。緊迫した空気だなってこと。玉木をちらりと見ると、固唾を飲んで二人のやりとりを見守っていた。
「ですよね。可能性はかなり低いと思ってました。調べる手段はあるけど龍塚先生が教えてくれるなら手間が省けるので一応聞いてみただけです。じゃ、そういうことなんで。」
スタスタと扉へ歩き始めるともちんを私も玉木もすぐには追いかけることができなかった。
「あ、し、白田俺らも行くぞ。」
私より先に我に返った玉木が促してくれて、ようやく私も後に続く…とその時。
「待て。」
龍塚先生の声に私たちの行動が止まる。ともちんはすでに扉に手を掛けていた。
「話はわかった。…教えてやる。」
やった!!三人顔を見合わせて小さくガッツポーズをする。
すると、おもむろに白衣を脱ぎ、ロッカーの中からダウンを取出して着こむ龍塚先生。
帰るのかな?
「さ、行くぞ。」
ポカーンとして先生を見る。その間にストーブを消しパソコンをシャットダウンし戸締りをする先生。
「たっつん…?場所教えてくれたら俺らで勝手に行くよ?」
「教えても教えなくても行くんなら、教える。そして私には教えた責任がある。…こうなりゃ引率するしかないだろ…かつてないほど面倒だが。」
心強い!!…と思うんだけどともちんはなぜか眉間に皺を寄せている。
「…私たちが花田先生と話している間は口を挟まないでください。」
「約束しよう。」
「…じゃあ行きますか?」
玉木が二人を取り持つように割って入る。こいつほんと気きくよなぁ…尊敬するかも。
龍塚先生の車でハナゲイダーの入院する病院へ向かう。学校の近くの病院かなと思ったんだけど、車に乗って20分。未だに目的地に着く気配はない。
不思議に思って先生に質問したら、学校の近くだといろいろ都合が悪いらしい。…どういうこと?
「…大人って汚い。」
隣でともちんがぼそっと呟く。前に座っている二人には聞こえなかったみたいだけど、私にはばっちり聞こえた。(玉木助手席、私運転席の後ろ、ともちんは先生に一番遠いところに乗っていた。)
今考えてみると、先生たちへの態度が普段より冷たいなーと感じたことはあった。ともちんは先生たちと絡みほとんどないから特に気にしてなかったけど…こんなともちんを前にすると、なんかあったのかな?と思ってしまう。
もしかして先生(今のセリフからして大人?)を意図的に避けてた…?でも、なんで?
ない頭で考えてもわかるわけはなく(そもそも人のことなんか想像でわかるわけない!!)いつかともちんが話してくれるのを待つことにした。
…あまりにも気になる時は聞いちゃうかもだけど…。
悶々としていたらいつの間にか病院に着いていた。時計を見ると1時間も経っていた。
車を降りて病院の中へ踏み込む。先生がナースステーションに寄り、病室を聞いてきてくれた。
エレベーターを上り(結構大きな病院。…古いけど)病室の前で立ち止まる。
うぅ…この中にハナゲイダーがいると思うと…うっぷ…
そんな私の状態を察してくれたともちんが
「怖い…?茜はここにいてもいいよ?」
と気遣ってくれた。
有難い…が私も真相を知りたいし頭を振る。襲われた恐怖とかそんなのはなく、ただ単に気持ち悪いだけだから大丈夫。(…のはず。)
ふー…と息を吐き出し自分を奮い立たせる。ともちん、玉木、先生を順々に見てから、ドアを睨み付ける。
「…うん、行こう。」