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約束  作者: りっこ
第5章 個々の能力
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本当の気持ち

「ありがとう…!」







影を消し去った私たちは別荘へと帰って行った。あれだけの戦いだったのに、ユウマは影の存在を感知できなかったようだ。


『そんなことがあったなんて…。』


「本当に何も感じなかったのか?」


そう問う雅史に、ユウマは複雑な表情を向けた。


『この島全体に結界を張っておいたんだ。修行に集中できるようにって…。その結界を超えてくるなんて…』


「あなたが気付けなかったのは、その結界を張るために力を使ったからじゃないの?」


「でもさー、結界を張った本人がそれを突破されたことに気付かないものなの?」


『結界にはいろいろ種類があるんだ。侵入を防ぐタイプ、侵入者を感知するタイプ…一度結界内に入った者をその中に閉じ込めておくようなものもある。効果を組み合わせて張る高度な結界もあるけど…今回は侵入を防ぐための結界しか張ってなかったんだ。…力が弱まったせいでね。』


ユウマは神妙な面持ちで私を見つめた。急げ、もう時間はあまり残されていない。そんな声が聞こえるような気がした。


「まあまあ。とにかく撃退できたんだし、とりあえず今日はこのままお開きってことでいーんじゃない?翔も疲れただろ。」


若干空気が重くなったところで、悠斗が明るく言った。


「…そうね。ユウマの力が弱まっているとしても、私たちの力だって成長しているんだから。何も悲観的になる必要はないわ。」


「そうだねー☆明日っからもっともっと頑張ろう!」


「おい、待て。反省会がまだだ。」


「いーって、いーって!反省は各自するってことで。今日はゆっくり休んで、明日からまた修行に力入れようぜ。じゃあ、解散っ!」


雅史の意見をガン無視の悠斗はそれだけ言うとさっさと一人自室へ向かう。それに龍太が続く。


「…雅史先輩、俺付き合いましょうか?」


「遙…いや、今日は休もう。」


気遣う遙に小さく首を振る雅史。こんなことで心折れてはあの二人と一緒にいることはできないもんね。溜息をつきながら雅史も部屋から出て行った。


「じゃあ俺も部屋に戻ります。また明日。」


遙も出て行って、リビングに残ったのは四人になった。じゃあ私も…と腰掛けていたソファから立ち上がると、ともちんもそれに倣った。


「…玉木?部屋戻んないの?」


私たちが廊下へ続くドアへ歩き出しても動こうとしない玉木。それに気付いて声をかける。


「俺は…まだいいや。おやすみ。」


と言われてしまった。疲れてるだろうに…まあ本人の勝手だからいっか。ユウマと玉木にそれぞれおやすみを言って廊下に出る。今日はなんだかいろいろあった…よく眠れそう。欠伸をしながら自室の前へ来ると、ともちんがふいに私の手を掴んだ。


「ともちん?」


「ちょっと話さない?夜はまだ長いことだし。」


悪戯っ子のように笑うともちん。断る理由もないし、誘われるままともちんの部屋へお邪魔することにした。


「今日は大変だったわね。まさか玉木が取り込まれるなんて思わなかったわ。」


「全くだよ~。人騒がせにも程がある!でも…無事でよかった。あのまま…玉木が完全に取り込まれてたらと思うと…」


ゾッとする。想像しただけで体が震えた。やだやだ。玉木は無事だったんだからもういいじゃん。こんな想像はもうやめよう。


「ね、茜。…今回思ったんだけど…」


ともちんが言いにくそうに、顔を歪めた。


「私たち…ユウマを殺す…のよね?そんなこと、本当にできる?」


「え…」


「ユウマがそう願ってるのはわかってる。だけど…一度仲間だと思ってしまった人を殺せるの?今回の玉木がそうじゃない。どうしようもないから自分ごと消してくれって…。仲間を…殺せる?」


ドキ…とした。考えなかったわけじゃない。でも私は殺さなきゃいけない。そう思ってきた。それが私にしてあげられる唯一のことだから…と、言い聞かせてきた。


「…殺すよ。それがユウマの望みだもん。」


私がぶれちゃいけない。わかってる。だけど…今日は本当に参った。玉木を殺さなきゃいけないかもって状況が、私の決意を揺らがせたのは事実で…。ユウマはもう私にとって仲間と思える程の存在になっている。その仲間の命を自分の手で奪う。そんなことが本当にできるんだろうか…?


ともちんには私の迷いが見えていたんだ。


震える手をともちんが包んでくれる。


「今日だって玉木は助かった。ユウマだって…殺さなくていい方法があるんじゃない?そもそもなんでユウマは死にたがっているの?」


ともちんに言われて初めて気付く。私…多分、ユウマとの過去を全部思い出したわけじゃない。なんで…殺してあげなきゃいけないって思ったんだろう?私は…何を忘れてるんだろう?


「それは…私も全部理解してるわけじゃないんだ。ただ…小さい頃に会ったユウマがすごく悲しそうで、辛そうで…生きていることでこの人がこんなにも傷つくのなら、私が終わらせてあげたい…そう思って…」


「…そう。」


ともちんが俯く。うん、どうしようもないんだと思う。私は約束してしまった。


「でも私は嫌よ。茜がユウマを殺して辛い思いをするのは。探す。全部うまいこと行くような…そんな方法を探してみせるわ。」


顔を上げたともちん。その瞳からは諦めるという選択肢は窺えなかった。


「ともちん…」


「茜も約束に縛られないでいいのよ。嫌なら嫌!はっきりする!」


「…やだよ。嫌に決まってるじゃん!なんで私がユウマを殺さなきゃいけないの!私を人殺しにしないでよ!…でも…」


昔見たユウマの…全てを諦めた瞳がフラッシュバックする。あんな顔、もうさせたくない。私が殺すと約束した時のあの笑顔を思い出した今、再びあの顔を忘れることなんてできない。


「…いいわ。茜はそのままで。私が勝手に動く。私の意志でね。だから…茜も私を止めないで。」


「…うん。わかった。」


もう何も言えなかった。ユウマが死ぬこと以外で救われる道があるのならそれが一番いい。でも私は約束に縛られて動けない。そんな私の気持ちをともちんはわかってくれる。ユウマが救われる道を探すと言ってくれる。


「ありがとう…!」


ともちん、私いつも助けられてばっかりだ。巻き込むだけ巻き込んで、何も返せてない。それでも傍にいて力になってくれる。感謝してもしきれないよ。


うまく言葉にできなくて、ともちんに力いっぱい抱き着いた。





一方――――


リビングに残った俺は、ユウマの前に立っている。一対一で話がしたかったから。


『…何?』


…何って聞かれると、何ってこともなく…。…いやいや、話したいことはいっぱいあるんだ。あるんだけど、ありすぎていざ聞かれるとどれから話そう…とかいろいろ考えてしまう。


「あ、いや…えっと…あ!!俺の力でこの島に結界張れるかな!?」


そうそう、これも聞こうと思ってたんだった。思い出せてよかったー…。


『張れるよ。翔は気付かなかっただけで強い力を持ってるんだから。今日自覚したことだし、うまくできると思う。』


そう言ってふにゃっと笑う姿はとても人間味があって…。俺は一番言いたかったことを口にした。


「あのさ…本当に白田はお前を殺さないといけないのか?」


唐突な俺の質問に、ユウマは眉を下げて笑った。そして簡潔に答えをくれた。


『そうだね。』


笑っているのに…その笑顔には悲しみが滲んでいた。ユウマもきっと辛いんだと思う。だけど…


「俺、今日思ったんだ。白田…お前を殺したら壊れるんじゃないかって。」


俺が殺してくれと頼んだ時のあいつの顔。普段表情に乏しいあいつが、目を見開いて…この世の終わりを見たような顔をしたんだ。眉はハの字、唇はうっすら開かれて…何か言いたげなのにパクパクと動くだけで。


淡泊な性格かと思いきや、実は仲間想いの熱い奴だから。俺たちには「約束だから」と割り切った風を装っているけど、本当はすごく辛いんだろうなって、思うから…。


『…茜は大丈夫だよ。仲間に恵まれてる。きっと…壊れたりなんかしない。』


…そうかな?それは違うだろ。ユウマが言う「仲間」にユウマ自身入ってるはずだ。うん、白田のことだ。絶対そうだ。


自分の考えに確信を持った俺は、ユウマに反論しようと口を開きかけた。…が、先手を取られてしまった。


『結界の張り方を教えるよ。早く新しい結界を張らないと、また余計なものが邪魔をしにここへ来てしまう。』


「あ、ああ…。」


正論を言われてしまえば逆らうわけにもいかない。この話はこれで終わりとばかりにユウマは結界を張るコツを俺に教えてくれる。結界を張り終えたら話の続きをしようと企んでいた俺だけど、初めての作業に力を使い切り…気付けばそのままリビングで寝てしまっていた。


…絶対確信犯だろ。


だけど俺は諦めない。次の機会を狙う。もう…あんな顔、白田にさせたくないから。

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