ネガ玉なんて見たくない。
「白田…せめて半分にしてくれ。」
玉木は私たちをじっと見ていた。呆気にとられたようなマヌケ面。その後見せた戸惑い。何かを考えるように視線を落とす玉木。
そうだよね。いろいろ考えるよね。私が玉木の状況に陥ったとしても考えるよ。仲間だと思ってるから、自分が犠牲になって霊と心中しようとするんだよね。わかる。うん、わかるけどさ。それ、誰も喜ばない。
玉木と私の立場が逆だったら、玉木だって私を止めるでしょ?そういう奴だもん。
なんでか知らないけど、今ネガティブ玉木になってるから悪い方にばっかり頭がいっちゃうんだ。もっと楽天的になろうよ。
それでさ、全部終わったら皆で打ち上げしよう。食べたいの好きなだけ食べて、悠斗と龍太あたりが何かやらかして笑って、それを雅史とかともちんが怒って、遙が的外れなこと言い出して、玉木がツッコんで…みたいな。何が何やらよくわからなくなって、最終的に皆笑い転げて…って。…うん、それがいい。そうしよう。
「玉木、打ち上げは玉木持ちだから。」
楽しい想像の後に、今の玉木を見る。覚悟が決まる。
玉木と目が合う。秒にしたらわずかだと思う。でも、きっと玉木には伝わった。私の気持ち。たぶん全部。
その証拠にネガ玉(ネガティブ玉木の略)だった時と瞳の色が変わった。例えるなら死んだ魚の目だったものが、キラキラ王子…は言いすぎか。兵士Aくらいにはなったんじゃないだろうか。
「白田…せめて半分にしてくれ。」
そう言った玉木の顔が完全に影に囚われて見えなくなった。でも今は希望があると信じられる。だって…
消える瞬間に見えた玉木の顔が笑っていたから。
玉木を完全に取り込んだ影が待ってましたとばかりに周囲を闇で染める。一瞬で皆を見失った。だけど怖くない。
修行した私たちをなめんな!!(まだ二日だけど…そこはツッコまない方向で)
皆動き出した。
まず強い風が起こる。竜巻が周囲の闇をグルグルと巻き込むと、天辺に穴が開いた。遙が空に目がけて炎を繰り出す。的外れな攻撃だ…と思ったけど、遙が放った炎は弧を描いて影本体に落ちて行った。思いがけないところからの攻撃に、影が創り出した闇が薄くなる。状況をすぐさま理解した雅史は風を抑え込み、次にともちんが水を操る。水は見事に影を飲み込み、空中に影を閉じ込めた。
「…なぁ、龍太。俺今回出番なしじゃね?」
「僕も活躍したかったんだけどなー…次回に期待だね☆」
水の中で苦しそうにもがく影。…いや、いやいや!影の中には玉木が…!!
「焦らなくて平気よ。玉木にはちょっとお仕置きが必要だと思っただけだから。溺死させるつもりはないわ。」
慌てる私にともちんが悪い笑みを向けた。…この状況でお仕置きとか考えられるなんて…ともちん、ハートが強靭すぎやしませんか?
宙に浮いた水球がゆっくり上へと動き出す。ハラハラしながらその様子を見ていると、水球の下から玉木のスニーカーが産まれてきた。
「お前…どんだけSなんだ。普通頭から先に出してやるだろう。」
「それじゃお仕置きにならないじゃない。…雅史、あんた普段Sのふりしてるけど、実はMでしょ。」
「なっ…!?」
「真正のSならそんな発言しないよなー。」
「あちゃ~ばれちゃったねぇ。」
「先輩はSとMどっちが好きですか?」
…緊迫感の欠片もない話をしているうちに、水球から出ることに成功した玉木が地面にドサッと落ちてきた。
激しく咳き込む玉木に手を貸す。「さんきゅ」と小さく呟いた玉木は全て吹っ切ったように晴れ晴れとした表情だった。
「水しこたま飲んだっつーの!」
「その程度で済んでよかったと思え。」
「まだまだやりたりないわ…。」
「まーまー!打ち上げは翔持ちなんだからいーじゃん♪」
「お前ら皆金持ちだろ!一般人にたかんなよ!」
「十百香さんのお仕置きに比べれば安いものだと思いますよ?」
「う……そ、そうかも。」
玉木が戻ってこれたことにほっとする…けど、これで終わりじゃないことはよくわかってる。
「打ち上げの場所あとで相談しようね!私メニューの上から順に頼んでみたい!!」
玉木、顔面蒼白。ふふん、ネガ玉だった玉木が悪い!
「…茜、そろそろ…」
ともちんの声で皆水球に向き合う。閉じ込められた影は縦横無尽に水球の中を駆け巡ってる。牢と化した水球だけど…限界が近づいていた。
「うん…早く終わらせよう。」
その言葉を合図に水球が弾け、影が飛び出してきた。
かかってこい。私の仲間に手を出した罪は重い。容赦は…しない!