浸食
「玉木………」
集中力を切らさないまま森の中を歩くことは、容易いことではなかった。
いつも以上に息が上がる。
だけどこの状態じゃないと黒い塊を追えないから…仕方ない。
ゼェゼェ…と切れる息に自分の身を呪う。やっぱり体力は必要なものだ。もっと体力があれば、もっと早く目的の場所に着くのに。もっと早く会えるのに。
そう思いながらも、少しずつ彼に近付いていく。確実に距離をつめていく。
思い思いに根を伸ばす木々に何度足をとられたかわからない。もうボロボロだよ。皆はこんなに足場が悪い中で修行してるんだなー…とぼんやり考えた。…そのうちだんだん腹が立ってきた。そもそもなんで私が皆に干渉しちゃいけないわけ?皆で仲良く修行してたら、こんな事態を招くこともなかったんじゃないの?なんで…こんなことになったの?
誰に怒りをぶつけたらいいのかわからない。ユウマは私たちに必要なことだからこの修行法をとった。皆も納得して修行に付き合ってくれてる。なんでこんなことになったのか…誰に聞けばいい?誰なら答えてくれる?誰に怒ったらいい?
自分の中で処理できない感情を持て余しているうちに、私の視界にその人の影がちらついた。
実際見てしまうと…思った以上に辛い。現実が胸を締め付ける。…どうして?何が…何があったの?
「玉木………」
玉木はそこにいた。森の奥深く。鬱蒼と生い茂った木々の中に。
「白田…俺」
私の声に玉木が振り返る。
「俺…お前の役に…立てない…」
その姿はいつもの玉木のものじゃなかった。黒い影が玉木にまとわりついている。それはゆらゆらと落ち着きなく揺れ、私の目から玉木を隠そうとする。
―――浸食―――
そんな言葉がふいに浮かんだ。
玉木は…浸食されてしまったんだ…。




