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約束  作者: りっこ
第5章 個々の能力
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黒い塊

『黒い…斑点?』








「っ!?」



…今、一瞬変だった。なんか…黒い塊が見えた気がした。


私は意識を集中させることを止めた。自然の中に浮かぶ仲間の気配…それとは別に、なんだか…気持ち悪いものを感じたから。


『茜?どうかした?』


急に集中力を切らした私に、訝しげな視線を寄越すユウマ。…今の違和感、ユウマは感じなかったんだろうか?


「…あのさ、もう修行三日目じゃん?皆、もう自分の力を掴んだのかな?」


『それは茜がよくわかってるんじゃない?気配を感じているはずだよ。』


個別の修行を始めて今日で三日目。皆夕食の時間になると屋敷に戻っては来るものの相当疲れているのか、会話という会話がほとんどないまま自室へ戻っていく。


そんな状態だし、ユウマには皆の修行について触れるな…的なこと言われているから、それぞれの状況が全くわからない。


力に目覚めた人に関しては発する気が強くて、どこにいるのか感じられるようになったけど…それでもどんな力に目覚めたとかそういうことはわからないままだった。



「うん…多分。だけどちょっと気になることがあるんだけど…」


『?どうかした?』


「ユウマは何も感じなかった?なんか…よくない気配を感じたんだけど…」


私の言葉にユウマは眉をひそめた。…この様子だとユウマは気付かなかったのかな?


『よくない気配…?………いや、俺にはわからない。それはどんなものだった?』


どんなもの…。私は一生懸命思い出す。先ほどあったばかりの感覚だけど…私よりはるかに力の強いユウマが感じなかったとなれば…気のせいだったような気もするし。一気に自信がなくなった私だけど、ここは正直に話すしかない。


「自然の色、皆の色とは別に何か感じたんだよね。…うまく言えないけど。…あ、なんかさ、水の上にいろんな絵具落として綺麗な斑模様作って、その上に白い紙を乗せるとさ、その白い紙が染まるじゃん?私今回の修行ってそんなかんじだなーと思うのね。いろんな色が混ざり合って、ところどころある強い色は皆の気配。薄いところが自然の色。…うん、そんなかんじ。それでさっきは…その綺麗な斑模様にさ、黒い斑点が見えた気がしたんだ。間違って墨を一滴落としちゃった…みたいな。」


…思いつくままにガーッて喋ってはみたものの…説明になっているのかいないのかすら自分じゃわからない。…もっとボキャブラリー豊富だったらよかったのに…。


『黒い…斑点?』


案の定、ユウマは首をひねる。…だよね。まあ今の説明じゃわからないよね。


「…疲れてたのかな?一旦休憩挟もうかな。」


ユウマのリアクションにさっき感じた黒い塊の存在を私ですら疑ってしまう。やっぱり気のせいだったのかもしれない…。


「うん、ごめん。やっぱりちょっと休憩してくるね。外の空気吸ってくる。」


ユウマには誰にも会わないように、と釘を刺されてしまったけれど、外出を止められることはなかった。


うん、せっかくこんな自然が溢れる場所に来てるんだもん。修行とはいえ、部屋の中にこもりっぱなしっていうのはよくないよね。


私は凝り固まった体を伸ばした。コキコキ…とよろしくない音があちこちから聞こえる。動くのは得意じゃないけど、ずっとじっとしているのも苦手みたい。…なんでもほどよくが一番だよね…なんて考えていると、急に全身の筋肉から力が抜けた。思わず膝をついてしまう。


「…な、に…?」


やっぱり滅多に集中しない私にとって、今回の修行は相当な負担になったんだろう。疲れが一気に出たんだ…そう思って、屋敷へ帰ろうと膝に力を入れて立ち上がる。その瞬間、全身を風が駆け巡った。


私の中に自然が…自然の力が吸い込まれるようにして入ってくる。


部屋の中で集中するよりも、今の感覚の方が鋭い。ううん、鋭いというよりか…こっちが望んでないのに力がわんさか入り込んできて…ちょっとした乗り物酔いみたいに気分が悪くなるほどだ。


「う…気持ちわる…戻ろ」


戻ろうと踵を返しかけた…時に、ある考えが私の頭の中に浮かんできた。


こんなに敏感になっている今なら、さっき感じた黒い塊の気配をもっとちゃんと調べることができるかもしれない。


そうだ…少しでもおかしいと思ったら確かめないと。私一人ではないんだから。私に危険が近づけば、皆にもその余波がくるんだから。


研ぎ澄まされた自分の感覚に震えが止まらないけど、(きっとキャパオーバーなんだよね、これ…いや、しかしガンバレ自分!)私は目を閉じた。

集中、集中…。

今吐けって言われたらすぐ吐けるぞ…それくらい気持ち悪い。でもやめるわけにはいかない。黒い塊のことを確かめるチャンスは…きっと今しかないから。

どうしてそう思ったのかわからないけど、とにかくその本能に従うことに決めた私なのでした。

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