雅史の場合。
「…風よ!!」
…全く、面倒なことに巻き込まれたものだ。
非科学的なものを信じていない俺に、霊という存在が言った言葉…無になり自然と同化しろ。…もう何も突っ込む気になれない。
何故こんなことになった…?本来なら俺は今頃留学していたはずだったのに…。
事の始まりは悠斗のアホだ。
「なんか見合い?しなきゃいけないらしんだけどさー、集団見合いらしくて!お前らも来いよ!」
勿論、こんな馬鹿げた誘いにホイホイ乗る程、俺の頭はめでたくない。でもこの時は…
「雅史、お前が欲しがってたコレ…どうすっかなー☆」
と、悠斗が手にしていたのは俺が前々から欲しかった彼の祖父の蔵書で…それにつられてまんまと彼の言う見合いに参加してしまったという…悔やんでも悔やみきれない。
結局集団見合いという話も悠斗の嘘だった。話がここで終わるのならまだいい。まだいいんだ。…それなのにあいつは…
「俺さー、転校しようかと思って☆絶対面白いからお前も来いよ!」
「いい加減にしろ。お前の気まぐれに付き合っている程俺は暇じゃない。現に今俺が何をしているかわかるか?留学のための書類を…」
「雅史くーん☆こ・れ。何かわからないお前じゃあるまい?」
「っっっ!!!???」
そう言って悠斗が俺に提示したものは…もはやその存在は幻とまで言われている、13年前テレビで放送されていた“焔と燃えカスのにらめっこ”で話題となった焔が断髪するシーンを見事なまでのクオリティで再現したフィギュアセットで…浅はかな俺は留学を蹴って悠斗と共に転校したわけだ。
…いや、どれも致し方ない。どれもとても貴重なものだったんだ。だから今の状況については甘んじて受け入れなければいけない…。何度そう自分に言い聞かせたことか…。
しかしながらここに霊的な存在という誤算があった。そんなものと関わり合いになるくらいなら、俺は貴重な蔵書もフィギュアセットさえも振り切って確実に留学していた。…今更だがな。
後悔先に立たず…とは、先人たちよ…よく言ったものだ。
と、まあいくら後悔したところで今俺が置かれているこの状況では今更何の意味もない。
そう観念した俺は俺の能力とやらを試すべく、片手を掲げた。霊的な存在はまず自分の能力が何かを確かめろと言った。だが俺の能力は既に確立している。この能力で仲間を救ったことだってある。
「…風よ」
ヒュン…………
凄まじい風が俺の周囲に巻き起こった。…はずだった。…どういうことだ?風の音が聞こえるはずだったのに…葉っぱ一枚さえも揺れない。
「…風よ!!」
今度は腹から声を出してみる。
……………
うんともすんとも言わない。………これは由々しき事態だ。己の能力がわかっていても、それを現出することができない。…この俺が挫折する…だと?
…そんなことはあってはならない。何がなんでもこの能力を自在に操ってみせる。それから数時間、俺は風を求めて叫び続けた。…別荘に戻った時、龍太辺りから掠れた声のことを指摘されたとしても…まあそれは仕方ないことだ。