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約束  作者: りっこ
第1章 始まり
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全校集会

昼休みまでいつもと同じ授業風景だった。

ハナゲイダーの噂はどこかしこでされていたものの、

パニックと呼ぶほどのことでもない。


「…おかしい。」


またもや田中くんの席を奪ってお弁当を広げている

ともちんが周囲を見ながら言う。


私もその視線の先を追うけれど、特に何もない。


「何?何か変なもの見つけた?」


私と視線を合わせると低い声で続ける。


「前からハナゲイダーのセクハラ、噂になってたじゃん?

そしてとうとうこの件でそれが事実ってバレた…。

被害者がいたらもっと空気がざわめくんじゃない?

いや、今もざわめいてるっちゃそうなんだけど

もっと深刻な空気…なんて言ったらいいか…」


確かに皆面白がってるだけに見える。

端から見たら被害者なんていないような気がする。

でも…


「もし被害者いてもさ、そんなあからさまに動揺しなくない?

バレたくないだろうし。」


「それはそうなんだけど…でも、それにしても空気が…」


「???わかんないや。」


ともちんの言ってることがちんぷんかんぷんな私。

空気ってそんなに変わるものなのか?


「春日(ともちん苗字)の言うとおりだと思う。」


「…玉木ってさ、友達いないの?」


ほんといつのまにか話に入ってくる。

別にいいんだけど、…心配になる。


「多分、被害者はいない。」


私の話スルーか。…て、え?

ともちんは納得しているようだ。


「ハナゲイダーの噂は噂でしかなかったんだ。

多分元々は誰かが面白がって流した噂で、

今回初めて被害者が出たんだと思う。」


「…根拠は?」


「春日が言ってた空気。俺も妙だとは思ってたんだ。

お前、割と空気読めるだろ?白田は…いや、いい。」


…どうせ空気読めませんよ。


「ほんとに被害者がいる場合、もっと空気が濃い気がする。

重いってかどんよりってか…。でも今は

いろんな空気がいろんなとこで跳ねてる…

皆面白がってるだけだから。」


ともちんは考えこみながらも浅く頷いている。


「…お前霊感あるんじゃね?空気に敏感とかそろそろ見えんじゃね?」


ちょっと嬉しそうな玉木と、それに関してはスルーのともちん。


「…根拠はないってことか。」


うっっと詰まる玉木。どんまいなんか言ってやんない。

人をKY呼ばわりしたんだ、ざまーみろ。


「でも玉木の言うことはわかる。…確かめるべき?」


玉木と顔を見合わせる。確かめるって…どうやって?

そんな心の声が聞こえたのだろうか。

いや、空気でわかったんだろうなー。


「ハナゲイダー自身に聞いてみない?」


「うっそでしょー!?」


「どうやって?本当のこと喋らないだろ。」


「懲戒免職から謹慎になるなら…本当のこと喋る…か?」


「…そんなことできんの?」


「私のおじいちゃん、ちょっとした権威者でね。しかも私を溺愛してる。」


「…聞かないでおくわ。なんか怖い。」


「ちょっと、ちょっと、おいてけぼりにしないで!」


あれよあれよという間に決まってしまった。

放課後すぐ龍塚先生にハナゲイダーの入院してる病院を聞き出すらしい。

でもさー、そんな簡単に教えてくれるの?


話がついた所で予鈴がなる。今から体育館に移動して全校集会。

体育館寒いからやだなー。渡り廊下通るし…冷える。


体育館に全校生徒が入った。もちろん今から起こることに皆興味津々。

教師がどこかしこで「静かに!!」とか叫んでるけど、

収まる気配がない。


ともちんと玉木は目を合わせて頷いている。

さっきの空気の話に確信を得たのかもしれない。

…私には未だによくわかりません。


吐く息は白く、床は氷のように冷たい。

おしりが冷たい…話するなら早くして欲しい。

(被害者だってのにほんと他人事。)


皆が集まってから十分程経つと、進行役のナルシーがマイクを

通して重々しく話し出した。


「えー…昨日、我が校内において事件がありました。

それについて今から校長先生よりお話があります。

では、よろしくお願いします。」


ステージに上がる校長は辛辣な表情を浮かべている。

恭しくお辞儀をして階段を上がる様がなんとなく面白くて、

(昨日めちゃくちゃ頭を下げている姿とのギャップがw)

下を向いて笑いを堪える。


「えー…昨日我が校内にて、大変嘆かわしい出来事がありました。

知っている者もいると思いますが…

我が校の教師が女生徒に対して破廉恥な行動をとり…

学校はその教師を懲戒免職処分にしました。」


一気に体育館の中の温度が上がった気がした。


えー!?

とか

きゃー!?

とか

やっぱりかー!?

とか


皆の反応はまちまちだったけど、誰もが驚きを声に出していた。


ナルシーが静かに!!と叫んでいる声が微かにする。

でも皆の声量の方が遥かに大きい。

校長は生徒が落ち着くのを一旦待つことにしたようで、

何も言わずに下を向いている。


マイクの声が通るくらいに静まった頃、再び話し出した。


「以前からこのような噂があったと聞き、もしかしたら被害者が

まだいるのではないか、そう考えました。

訴え出ることはとても辛いかもしれません。

ですが、心のケアの面も考え、ぜひとも

名乗りでて欲しい。この中に自分も被害者だという人はいますか?」


シーン…となる。


馬鹿だ。いたとしてもこんな場所で聞いて出るに出れないでしょうよ。


教師陣もそう思ったようでナルシーがフォローを入れる。


「誰にも知られたくないだろうから、

あとでこっそり先生に話せばいいぞ」


マイクの電源入ってるんだから、小さい声で言っても同じだと思う…。


ナルシーが話の途中で入ってきたことがちょっと不快だったようで、

眉間に皺を寄せた校長は咳払いをしてなおも話を続ける。


「今回のことを防げなかったことが残念でなりません。

今後教師は教師であることの自覚をより強く持ち指導にあたると共に、

君たちが安心して過ごせるような学校を作る努力をします。

今回は君たちに混乱を与えてしまい、大変申しわけない。」


深々と頭を下げる。


コツン…


そりゃそうでしょう。

マイクの目の前で頭下げたらマイクに激突でしょう。


皆笑っちゃいけない、と必死に堪える。

校長は居た堪れずにそそくさとステージから降りていった。


咳払いが聞こえ、その主を見る。

ナルシーが半笑いの顔で全校集会の終わりを告げた。



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