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約束  作者: りっこ
第5章 個々の能力
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十百香の場合

「…何なの、それ?初めて言われたわ、そんなこと…」





わからないことだらけ。


ユウマの存在って何?なぜ茜が彼を殺さなきゃいけないの?納得いかない。


…いくら私が納得いかないって言っても、当人たちの間では納得済のこと。そんなこと、わかってる…。外野が口出す問題じゃないのは百も承知。でも…茜を傷つける奴は誰であろうと絶対に許さない。何があっても傍にいて茜を支える。友達のいなかった私にできた…唯一の存在だから。


「…行けども行けども木ばっか…。」


とりあえずユウマの言う通り個人行動をとり始めたんだけど…具体的に何をやればいいのかさっぱりわからない。そもそも私の能力って…何なの?お見合い合宿の時は感知力に優れてるのかな…と思ったりもしたけど、あれ以来特に何を感じるわけでもない。むしろ悠斗の方が感知タイプだと思う。(バレンタイン参照)


だから…いざ自分の能力と向き合うってなると…立ち往生するしかないわけで…。…私、こんなんで茜の役に立てるんだろうか…?


マイナス思考に頭も体も支配される。…いつも強気な自分を演じているけど、本当は弱い自分を晒すのが怖いだけ。強い私…それは弱い私が創り上げた偶像でしかない。…強く、なりたい。いつもそう願ってきた。


お金持ちでいいね…そう言われた。ちっともよくない。広い部屋に一人きり。孤独は私に殻を作った。嘘で塗り固めた殻は、本当の私を上手に隠してくれる。


一人でいる方が気楽。嘘。両親とほとんど顔合せることなくって煩わしくないからいい。嘘。いつも一人で食事…好きな時間に好きなことができる…なんて私は恵まれているんだろう。嘘嘘嘘。全部嘘…。


弱い自分を認めたくなかった。私は一人で平気なんだと思っていたかった、思われたかった…。


茜と出会って、嘘の殻は徐々に溶けていった。きっと本人は気にもしてないんだろうけど…。私は忘れない。だって…すごく、嬉しかったから。


私は入学当初から一人だった。中学時代の噂が既に高校でも囁かれていたから。…事実無根のひどい噂も中にはあった。でもそんなの気にならない。…そんなふりをしていた。


そんな時、茜と出会った。入学してから3か月も経つけど、話したことはなかった。隣のクラスだったし…誰も私と話そうとしなかった上に、私も拒絶オーラを出していたから。


あの日、私はいつも通りお昼をとるべく屋上へ向かっていた。生徒立ち入り禁止だが、そんなこと知ったことじゃない。一人になる場所、一人を見られない場所が欲しかったから。


階段を上っていると、ふと目前に影が飛び込んできた。やばい、ぶつかる…そして落ちるこれ…。

完全に私の体は宙に放り出されていた。あー…この高さなら死にはしないだろうけど…痛いんだろうな。なんてことを考える余裕がなぜかあって…今思えば麻痺していただけかもしれない。


そんなこんなで私は階段から落ちて行った。意識くらいは飛ぶのかな、とか思っていると鈍い衝撃が体に走った。頭は打たなかった…というより…何か柔いものに落ちたというか…別にどこも痛くない…?


「いっ…たー……。」


すぐ後ろで女の子の声がした。私…こともあろうか女子の上に落ちてしまった?慌てて体を起こす。


「すみません…大丈夫?」


「あ、お気遣いな…って、嘘っ!?!?」


その女子生徒は私と自分の体の間にあった紙袋の中身を廊下にぶちまけた。…売店で売られているパンが見事につぶれてしまっている。


女子生徒に謝ろうと口を開きかけたところで、私とぶつかった張本人が階段を駆け下りてきた。


「ごめん!!大丈夫だった!?保健し…げっ!?す、すみませんでした!!!」


…私の顔を見るや否や、さっさと立ち去る男子生徒。…私の噂って、そんなに知れ渡っているのだろうか?今の人、上履きの色から三年生ってわかったんだけど。


「何今の態度?失礼な人だな!!保健室くらい連れてけっての!!」


こんなのは慣れっこの私にはどうってことないのに。私の代わりに怒ってる女子生徒。…この子は、私のことを知らないのかしら?なら、関わらない方がこの子のためね。保健室に連れて行こうかと思ってたけど…私と一緒のところを見られたら、この子まで噂の対象になってしまう。


「…本当にごめんなさいね。じゃ…」


「え?ちょっと待って!!保健室行かなきゃ!!怪我してる!!」


言われて初めて気付く。ふくらはぎに擦り傷が少しだけ…この程度、別に…と断ろうとすると、女子生徒は有無を言わさず私の手を取った。


「行こうよ!私も肘擦りむいたし、絆創膏もらお!」


それから保健室に向かったのだけど、生憎先生がおらず…私たちはお互いを手当てし合った。


「パン…悪かったわね。弁償するわ。売店で待ってるから。」


極力一緒にいない方がいい。そう思って私は一人で保健室を後にした。呼び止める声が聞こえたけど…聞こえないふりをした。売店のパンはすでに売り切れ寸前で…どれを買えばいいのかわからなかったから、とりあえず全部買い占める。支払いを済ませ、紙袋を受け取ったところでさっきの女子生徒がやってきた。


「一人で行くことないのに…。え…ちょ、そんなにもらっていいの!?」


紙袋をそのまま渡すと、女子生徒の目はらんらんと輝いた。…ここのパン、そんなにおいしいのかしら?


「ええ。じゃ…」


「さすがに食べきれないし一緒に食べようよ!名前は?私白田茜!」


「一人で食べて。…私と一緒にいない方がいいわ。」


「なんで?」


「…知らないの?私の噂…。」


「知らないしそんなのどうでもいいもん。手当してくれたし、パンだってこんなにいっぱいくれたから。私の中であなたはいい人だよ?だから一緒に食べよう!」


「…何なの、それ?初めて言われたわ、そんなこと…」


「いーじゃんいーじゃん!とりあえずもうすぐ昼休み終わっちゃうし、早く食べようよ!ね!」


その後、半ば無理矢理中庭まで連れて行かれて一緒にパンを食べることに。…なんて強引なんだろう?だけど…初めて食べた売店のパンは、今まで食べたどんなご馳走よりも美味しくって…不覚にも少しだけ泣けたんだ。


私を救ってくれた茜がユウマとの約束を守ろうとするなら、私は全力で協力する。私にできること、私の力、全部茜にあげる。


だから…このまま立ち止ってるわけにはいかない。私は目を閉じた。全神経を自然に向ける。葉のざわめき、風のささやき、水のせせらぎ、全て命の音…。命の中にある…私の体、私という意識、私の…命。



ポツ……シー…



「っ!!」


今…何か視えた気がした。自分の中心にある何か…。もう一度目を閉じる。


茜、待ってて。きっと私…今掴みかけてる。茜の力になれる、私の力…。自分の力を信じて、再び自然へと意識を向けて行った…。

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