悠斗の場合
「…俺ってば天才かも…。」
皆とばらけた後、俺は一人フラフラと森の中を歩いていた。ユウマに説明されたことは俺にはちんぷんかんぷんで…。考えてもわからないことは考えない。これ、俺のモットー。いつかわかるようになる。いつまでたってもわからないなら、それは俺にとって大事なことじゃないんだ。…って思ってたけど、今回ばかりはそうも言ってられない。だからと言って今までの性分を変えられるわけもなく…。
どうすっかなー…と思いながら、とりあえず歩くことにしたんだ。
歩いてるうちにいろんなものが目に入る。同じような木ばっかだけど…決して同じ形のものはない。葉の色だって皆それぞれで…今更ながらにそんなことを気付かされる。普段ぼけーっとしてるからなー俺…。いや、今だってぼけーっとしてるだけなんだけどさ。これだけ自然ばっかだと自然と目に入るっていうか…あれ、俺自然自然言ってるわ。ちょっと意味わかんなくなってきたわ。
まあ…そんなことを考えながら歩いてたわけよ。
…やばい、本気でこれはやばいかもしれない。最初からユウマの言ってることわかんなかったけど…なんか本格的にわかんなくなってきたぞ…?
一時間経ち、二時間が過ぎる…その頃、ようやく危機感を抱き始めた俺。いやー…皆の足引っ張んのだけは勘弁なんだけどな。
ユウマは何つってたっけ?無になって自然と同化しろ、だっけ?…無ってなんだよ、無って。俺から煩悩とったら何が残るっつーんだ…って自分で言ってて空しくなってきた…。
煩悩…かぁー…。俺の十百香に対する気持ちなんてまんまそれだよな。…最初はおふざけが半分以上あったんだけどな。いつのまにか…なんていうか、あいつ不器用なんだよな。器用そうに見えて。それに茜のことめちゃくちゃ大事にしてるし。(この言い方だと十百香男みたいだな…)
…本当にいつのまにか、真剣にあいつのこと見るようになってたんだよなー…、この俺が。女なんて適当に遊べればいいやと思ってたんだけど。見事はまっちゃったよwあのバレンタイン事件ではっきりと自覚した。十百香があんな露出激しい服着て男はべらせてんの見たら頭に血が上って…絶対十百香を取り戻してやるって…無我夢中だったなー…。そしたらノートから想いが流れて来て…ほんで霊に体貸して…。最終的には他人の心を読めるようになってた。…あれ?俺の能力、はっきりしてね?
なんだ?つまり俺は誰かの心を感じ取れる能力ってことになるよな?…無になってないけど、ユウマが言ってた第一段階クリアじゃね?第二段階は…その能力を自由に使えること…だっけか?…俺、あの時自分の意志で人の心を読んだよな?…これもクリア…ってことじゃね?そうだろ?
「…俺ってば天才かも…。」
特に無になるわけでもなく、自然と同化するわけでもない。…だけど俺にはできていた。…これ、俺マジすげえ。
「ってことは…十百香に対する煩悩も捨てる必要はないってことだよな?よっしゃ!」
もともと何があっても捨てる気なんてさらさらなかったけど、ひとまず安心する。…こんなに特定の誰かを好きだと…大事な人だと想えたのは、初めてだからな。…この感覚、大事にしたい。だから気持ちを伝えた。答えを聞く勇気は…今のとこ全くないから保留にしてるけど…いつか…いつか必ず俺の事を好きだと言わせてやる。つーかそれ以外の言葉は聞く耳もたね。しらね。
…俺さ、自分がこんなにチキンだったなんて知らなかった。告ったはいいけど、返事を聞く勇気がなくて、告った事実なんかなかったのように十百香に接する。…ほんと、馬鹿だよ。でもチキンで終わる気はさらさらねえ。十百香の隣は誰にも譲らない。そのために俺が今できること…自分の力を高めること。
今は十百香の側にいて、十百香を守る。十百香の大事な茜も守る。仲間を守る。
…それでいい。今は、な。十百香…覚悟しとけよ?
…結局俺の修行とやらでやったこと…
一つ、歩き回る
一つ、十百香への想いを馳せる
…以上。…これでよかったのか…?