遙の場合。
「…最初さえ我慢すれば全然熱くないんだけどな…。どうやったら全く熱を感じずにいられるんだろう…?」
ユウマとやらに言われた修行法を試してから数時間が経った。
「なるほど。…俺はこれってことか。」
自分の掌に意識を集中させる。一瞬焼けるような熱さに襲われるが、その瞬間さえ過ぎ去れば自由に炎を生み出せるようになった。
これでユウマが俺たちに課した修行…第二段階をクリアすることができたわけだ。
――――別荘にて――――
「へ?自分と向き合う…?って…具体的にどうすれば…」
『自然の中でただひたすら無になればいいんだ。自己と自然を同化させるうちに、自分の中に一つだけはっきりとした力が浮かび上がる。』
「…無ってどうすればなれんの?俺煩悩だらけなんだけど…。」
「う…僕に聞かないで…。雅史とかは得意なんじゃない?」
「難しいな。無…てことは外界から意識を遮断させるということだ。」
「それなのに自然と同化させなきゃいけないって…矛盾してるわね。」
「…何言ってんのかさっぱりなんですが。」
「お、翔仲間じゃん☆」
「なんか…簡単じゃないってことはわかった…!」
「口で説明するよりも実際にやってみた方が早くないですか?」
『そうだね。皆にはそれぞれ別行動をしてもらうよ。まず修行第一段階は、己の力を見極めること。それができたら次はその力を自由に操れるようになること。これが第二段階になる。とりあえずこの二日で第二段階までクリアしてね。』
「たった二日?それだけしか猶予はないの?」
『ここは自然の力に満ちているから…他の場所で修行するよりかは断然早く習得できると思うよ。』
「…答えになっていない。」
「まあ…やるしかないってことですね。」
「…だな。」
…というわけであの後すぐに別荘を後にした俺たち。悠斗先輩の島は広くて…途中誰かに会うことはなかった。うまい具合にばらけたようだ。
「皆大丈夫かな?」
無事第二段階までクリアできた俺は、他の人のことを心配する余裕がある。
…やっぱりばあちゃんに憑かれてたからかな…。自然と同化するのは簡単だった。自分以外との同化はばあちゃんのおかげで慣れっこになっていたのかもしれない。
同化した後、俺の中に異質な物が残った。明らかに自然のものとは思えない…不自然な力が体の中心でくすぶっていることに気付いた。それが炎であると理解するには少し時間がかかったけど…わかってしまえば現出させることは容易かった。
「…最初さえ我慢すれば全然熱くないんだけどな…。どうやったら全く熱を感じずにいられるんだろう…?」
ユウマが課した修行の第二段階を終わった俺は、自分で目標を立てるしかない。終わったから…って別荘に戻ってもよかったけど…この力が先輩を助けるものになるのなら、自分にできる最高のことをしたい。…なんて柄にもないことを思っている今の自分…結構好きだ。
「…よっ。…うーん…やっぱり熱いな…。でも熱さが一瞬で消えるってことは、完全に消すこともできる気がするんだけど…。うーん…。」
…炎は熱いもの…そう身構えているから、一瞬怯むのかもしれない。…でも、炎を熱いものじゃないと今更認識を変えることは不可能で…あー…どうしたらいいんだろう…。
俺は森の中で悶々と葛藤を繰り返していた…。