合宿決行
「「「「「「その話乗った」」」」」」
早速昨日の決意を実践することにした。
放課後部室に集まった皆に、それぞれ定位置に座ってもらう。
「はい、注目ー。」
その一言でそれまで雑談していた皆の視線が一気に私に集中する。…この状況を作ったのは私なんだけど…しくったな。言い出しづらい…。
「エホン…。あー…まず、今日は皆に聞いてほしいことがあります。ユウマのことなんだけど…うまく説明できるかわからないけど聞いてほしいんだ。」
そう切り出すと、意外や意外。誰もが本当に真剣に私の言葉に耳を傾けてくれる。…ありがたいなー…。
「ユウマとは私、面識があったみたいで…小さい頃に約束してたんだ。ユウマを…殺してあげるって。」
殺す…その単語を出した時に、空気は一気に緊張度を増した。…そりゃそうだよね。穏やかな話じゃないもん。
「えっと…そしてユウマ自身、私に殺される準備をしたらしいんだ。自分を二つに分けて一つを封印するっていうふうに…。その分け方なんだけど、一つは彼の良心…これが今私に憑いてるユウマ。もう一つはユウマの悪い心…本能?人を殺すことをよしとするユウマの心、これを封印したんだって。分裂しなかったらどうしたって生きたいという欲望に負けるとかで…。で、その封印されたユウマの方が人間の-の感情を糧にどんどん力を増していってる。ユウマが抑え切れるのもあとちょっとなんだって。それまでに私はその悪いユウマに勝てる力を身につけなきゃいけない。それで…皆を巻き込んでしまったんだ…ごめん。」
一息で言ってしまう。今口を挟まれたら頭こんがらがって話すべきことが飛ぶかもと思ったら…止められなかった。そんな私のことをよく知っている皆は、最後まで黙って聞いてくれた。私が落ち着いたのを確認してからそれぞれ言葉を発し出す。
「…大分ややこしいことになってるわね。悪心を封印しなければいけないほどダメな奴ってこと?」
「わっかるー…俺もやましいことばっか考えてるからなー…ユウマに一票。」
「自分の死に他人を巻き込むという考え方には賛同できんな。」
「うーん…でも自分だけじゃどうしようもなかったのかもしれないよ?それはもう仕方ないんじゃないかなー…。」
「だからって自分を殺してほしいなんて言うか?言われた方の身にもなってみろよ。…きついぞ。」
それぞれの意見を述べる。…いろんな意見があるんだなー…と感心していると、それまで口を閉ざしていた遙がぼそっと言った。
「先輩はさ、約束だからって…殺せるの?」
…シーンとなる。確かに…殺したくないよ。殺さなくていいならそれに越したことはない。だけど…。
「ユウマの…苦しみがわかるから…。私にできるなら殺す。…殺してあげたいと思う…。」
「…先輩の覚悟が決まってるんなら俺は何にも言わない。協力するよ。」
ふわ…と笑う遙。彼の笑顔に救われるのは…何度目だろう。
「俺だって…!!俺だって協力する!!」
「ま、乗りかかった船だ。仕方ない。」
「もー…まーくんったら素直じゃないんだからぁ☆俺も手伝うよ。」
「ずるい、皆!!僕だって手伝うよ!?…あんまり力になれないかもしれないけど…。」
「で?私たちは何をすればいいの?」
口々に協力を買って出る…。本当にいい人たちに巡り合えたな。こんなことに付き合ってくれるなんて…皆どんだけお人よしなんだろう。
柄にもなく涙腺が緩みそうになった。泣いてなんかいられない。誤魔化すように頭を数回強く振って、ユウマの言葉を思い出す。
「…ユウマは分裂してから力が弱まってしまって、でも力を人に分けることで力が増すんだって。なんでも、人にはそれぞれ少なからず能力があるらしくて、ユウマの力を引き金にその人の得意な分野ががーって強くなる…と。それを最終的に私に返してもらえば、-ユウマに対抗できる…とかなんとか…。」
…大体そんなところだよね?間違ってないよね?
「…春日なら感知能力、悠斗は受信…俺は風…のようなことか?」
「…俺は?」
「…知らん。」
玉木がしょぼーんとなる。…言われてみれば玉木の力ってどんなんだろう?
「とにかく…それぞれが力を蓄える必要があるってことは確かだね。」
遙がまとめてくれる。うん、とりあえずそんなかんじだ。
「それで、ユウマが合宿をしたいって言ってるんだけど…どう、かな?」
「「「「「「その話乗った」」」」」」
…すんなり皆の同意を得られたよ…。これで合宿の決行が決まった。
…なんとまぁ…あっさり。