おばけ?
またもや寝坊してしまい、遅刻寸前の私。
ほんと懲りないなーと自分でも思うけど仕方ない。
「朝ご飯は~?」
もちろん食べている時間なんてなく…。
「コンビニで買ってくからいい!いってきます!!」
駅前のコンビニでおにぎりだけ買おう。
…と思ったけどチョコビスも買ってこう。
ともちんとのおやつにする。
はい、ぎりぎりセーフ!!
今朝はあの変なおばけに会うこともなく心置き無く全力疾走できた。
(昨日も完全に忘れて走ってたけど)
「茜!!」
教室に入ると同時にチャイムとともちんの声。
少し遅れて副担のモッチー(持田先生…ハナゲイダーと違い
生徒から割と慕われている。年も二十代後半くらいでかわいい。)が入ってきた。
「あれ?ハナゲイダーは?」
「朝からモッチーとか嬉しい。」
ざわざわと皆思い思いの言葉を発している。
その中にハナゲイダーを心配する声などひとつもなく、
皆この状況に喜んでいた。(そりゃそうだ)
ともちんに後でねっとジェスチャーで合図を送り、
慌てて自分の席へと向かう。
窓際の一番後の席。席替えとかもういりません。
私が席に着くのを待ってからモッチーは静かに話し出した。
(もともと声が小さいモッチー、ことがことなだけに話づらそうで
さらにか細い声になっていた。)
「お、おはようございます。あの、花田先生は今日から学校に来ませんので、
私が担任になります。なので、…よろしくお願いします(?)。」
…えーっと?そんな説明で大丈夫なの?
と不安的中。皆が騒ぎ出す。モッチーどう切り抜けるんだろう?
誰かがおもしろがって
「セクハラの噂あったじゃん?あれ本当でとうとう生徒孕ませたとかじゃね?」
と割と大きな声で言ってしまう。
一番後の席からはともちんと玉木が一瞬ビクっとしたのがよくわかった。
事情を知ってる人は反応してしまうよね。ごめん。
ざわつきが収まるどころか悪化してしまい、モッチーは慌てふためいている。
と、この騒ぎを聞きつけた隣の隣のクラスの担任、ナルシーがうちのクラスに入ってきた。
(若干ナルシスト入ってる。名前も成瀬なので定着)
「今日5限目の授業潰して全校集会あるから、そこでこの話をする。
今は1限目の準備をしなさい!」
それだけ言うとモッチーを庇うようにして出て行った。
あの二人付き合ってる噂あるけど…モッチー男の趣味どうなん?
といらん心配をしてしまう。
だってナルシー、今俺女性を守ってます!感全面に出して恍惚としてたよ?
キモイ…。キモイ奴多くない?
こうしてHRが早く終わると、すぐにともちんが私の席までやってきた。
「ほんとに来たよ…。」
「そりゃ来るよ。あ、ごめん、ちょっと朝ごはんを…」
そう言ってビニール袋からおにぎりを取り出す私を見てともちんは
開いた口が塞がらないみたいだった。
「…ほんとに被害者?」
「えー?でもなんもないし。あ、これともちんもどうぞ。」
おにぎりを頬張りつつチョコビスの封も開ける。
2人してモグモグ口を動かしていると玉木までもやってきた。
「お前ら…緊張感ねぇ…」
呆れて私たちを見下ろす。
腹が減ってはなんとやらですもの。
そんな玉木の言葉はもちろんスルーでお礼を言う。
「玉木ありがとねー。お母さんがよろしく言っといてって。」
「いやー、あんたほんとよくぞ様子見に戻ってきたよね。
たまには役に立つわー。」
「たまにはって…。つーかこれ、どう説明すんだろな?」
「ハナゲイダーねぇ…うぇっ、人のことながらキモイ…。
処分とか決まったのかね?ていうか
モッチー担任になるって言ってんだし決まったのか?
懲戒免職?…ちっそのまま人間界を追放されてしまえ。」
「…じゃあ鼻毛界に追放?www」
馬鹿話になってきたところで1限目のチャイムが鳴った。
二人が自分の席へ戻る間に残りのおにぎりを詰め込む。
必死に口を動かし飲み込…んだんだけど、先生は来ない。
確か日本史だったはず。時間に厳しいはずの川原先生、どうしたんだ?
と思ったところ、ドアが開いた。
モッチーが縮こまりながら黒板に自習と書いて
「さっき伝え忘れちゃって…1限目は自習です。」
顔を赤くしながらそそくさと出て行った。
あれで二十代後半なんだから…なんだかなぁ…。
皆一斉にラッキーと言わんばかりに好き勝手なことをやりだす。
トランプ取り出してくる人、漫画読む人、早弁する人(人のこと言えないけど)、
おしゃべりに夢中になる人、…ほんとに自習する人なんて
うちのクラスにはいないらしい。
「さっきは話が逸れちゃったから続きしようか。」
気付けばともちんが目の前に。
あわわ、全然気づかなかったよ。
前の席の田中くんに席譲ってもらい(有無を言わせず)
足を組むともちん。
「で?昨日のことだけど、その後どう?また見えた?」
「いやー、特に何も。でもあれ絶対おばけだって!」
「そうかぁ?今日何も起こってないってことはさ、
さすがの茜も昨日は精神状態が安定してなかったとかじゃない?」
ちょっと考えこんでみる。昨日かぁ…確かに衝撃的ではあったけど…
ん?いや違うよ。
「やっぱり昨日のことは関係ないよ!だってあのくそ気持ちわる
ことの前にもあったもん。朝!電車待ってる時に見えたやつ!」
あー…と首を傾げるともちん。
霊的現象信じてないからな…否定できる箇所を探してるのかな。
でも私も信じてなかったのにこんなことになってるしな。
やっぱりあるのかも、霊とかそういう世界。…とか言ってみたり。
「何?今度はなんの話?」
…ほんと絡むの好きだな。またしても玉木が割って入る。
今度はご丁寧に椅子まで持参してきた。
「玉木はおばけ信じる?」
唐突に聞いてみる。だって他に言いようがないし。
「は?おばけ?いきなりだな。…信じてるよ。つーかいるってあいつら!」
最後の部分えらく感情的になってるけど、何かあったのか?
思わず玉木を凝視する。ともちんも同じだったようで
二人からの視線に玉木は我に返ったように身じろぎした。
「俺さ、見たことあるんだよ。
交通事故の現場とか…そういうとこ通ると半々の割合で何かしら見えるんだよ…。」
「初耳~。何それ?玉木霊感強いの?」
「見えるだけで何もできないし別に強いわけでもないと思うけど…。」
ともちんは黙って、疑いの目で玉木を見ている。
その目に気圧された玉木だけど「仕方ねーじゃん、ほんとなんだから…」
と消え入るような声で抗議した。
「玉木放課後付き合って。茜、あんたも。」
何か考えてたともちんがおもむろに言った。何するんだろ?