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約束  作者: りっこ
第4章 名をもって
58/111

サプラーイズ☆

「付き合いが浅くてもな。こういうのは時間じゃない。」







背中をぐいぐい押される。階段を下りて見慣れた校舎の中、皆の意図がわからないまま流れに身を任せていた。…なんか、さ。いろいろあって頭が働かないよね。とりあえずされるがまま…なんか険悪な空気になれば相沢遙のこと、少しは庇おう。奴も大変だったんだし。


そんなことを考えていると、目的地へついた。そこは…いつもの部室?


「入って。」


ともちんの声が私を促す。


「あんたもよ。」


と、皆と少し距離を空けていた相沢遙にも。


「俺はい「ごちゃごちゃ言ってないで入ればいいのよ。」」


…ともちん、怖い。


ちらりと相沢遙の顔を覗き見るけど、私には目もくれない。…いい態度じゃんか。気にしてる私がバカみたい。


そんなちょっとしたことに若干腹を立てた私は、そのまま部室のドアを勢いよく開けた。


一歩踏み出そうとした足がそのまま固まる。それと同時にパンッと渇いた音が後ろから聞こえてきた。


「「「「「ハッピーバースデー!!茜&遙ー!!」」」」」


…はい?何これ?部室の中すごい豪華になってるんですけど。なんで部室のど真ん中にシャンパンタワー?真っ赤な絨毯敷かれてるし…どこぞのホストクラブ?


「びっくりしたー!?」


「大変だったんだぞ。ばれないかってひやひやした。」


「あと茜がちゃんと来るかってw」


「寝坊はしたけどまあよしとしましょ。」


「そこまでは想定内だったしな。悠斗の暴走は止められなかったが…。」


内装やっぱり犯人は悠斗か。って…誕生日?え、今日何日だ?え、誕生日!?


「うっわ…すれてた…。皆ありがとう!!てか相沢遙も?」


「…いや、俺まだ…。」


「来週でしょ?一緒にしちゃえってことになったんだよー。」


「龍太が遙の誕生日を小耳にはさんできてさ。」


「どうせなら遙にもサプライズやっちゃおうってな♪」


「はい、これプレゼント。」


「え…プレゼントまで!?うわーありがとう!!」


「あんたにはこっち。」


遙にも手渡される。予想だにしない展開にあたふたしながらも、私はその包みを開けていく。なんか…えらいでかい上に…すこぶる重いな。


「うわー!?抱き枕!?しかも餃子型!?…すごいふかふかで気持ちいい…あ、なんか今すぐ寝れそう…。」



「おいおい、寝るなよ?つーかまだ中見てみ。」


「え…あ、なんかいろいろあるけど…これも?…………わ、わ、わー!!!」


抱き枕の下にラッピング袋に包まれたものが…1、2…5つ。その中身をひとつずつ出していく。…多種多様だな。


目覚まし時計、ゆるキャラグッズ、参考書、キャンドル、少女マンガ…?


「ねねっ、どれが誰からか当ててみてー!!」


「え…っと、参考書は雅史。ゆるキャラは龍太。…目覚まし時計が玉木。うん、キャンドルがともちん。少女マンガが悠斗!!」


「…すげ。」


「なんでわかるんだ?」


「あんたのだけは誰でもわかると思うわ…。」


「茜、これ読んだら女子力アップ間違いなし!!」


「…そんなのいらないけど。」


「!?茜~、それJKのセリフと思いたくない…。」


「い、いいじゃん、人それぞれだよ、こういうのは!!」


…なーんてきゃいきゃい騒いでるそんな中、フリーズしたままの1名。


「…開けないの?」


「…俺、もらう資格、ない。」


「うるっさいわね。そんなもんに資格なんていらないの!!」


「そうだよ!ほらほら!」


「遙がいなけりゃこの企画自体なかったかもしれないしな。」


「?どういうこと?」


「言いだしっぺは遙なんだよ。先輩にサプライズ仕掛けましょうって。」


「そうそう。それから遙と一緒に買い出しに行って…ほら、彼氏ってことになってたじゃない?だから茜の好きそうなものを一緒に選んでもらうってことで行ったんだけど…。」


「あーでもない、こーでもないって…最終的にそれぞれの主観で買ったっていうw」


「楽しかったよねー!!」


日替わりデートはそういうことだったのか…。全員で行けば1日で終わるような気がするんだけど。


「…もらっとけ。」


「逆に失礼だぞ?」


雅史の圧力と玉木の一言で、相沢遙は渋々とプレゼントのリボンに手をかけた。


まずでてきたのがルービックキューブ的なもの、パズル(1000ピース)、プラモデル、どえらい知恵の輪セット、そして銀細工のキット…。うわぁ…私がやったらすぐさま眠気がやってくるかんじのものばかり…。というか、なんだか方向性が同じようなものばっかり。狙ったのかと皆の顔を見ると、これまたバツが悪い表情でプレゼントの中身を見ている。


「…ははは、ま、こういうこともあるよな?」


「皆思うところは一つってやつか。」


「誰のが1番遙気に入るかなって言ってたけど…似てるのばっかだねー…。」


「…買う前に相談すればよかったわね。」


渇いた笑いがあちらこちらで…と、当の本人はノーリアクション?


「…相沢遙ー?」


心配になって顔を覗きこむ。…?何か言ってる?唇が微かに動いてる。


「…なんで?」


もう一度発した言葉はちゃんと皆の耳にも届いたようだ。


「あれ?気に入らない??うわっそれなのにこんだけ被ってごめん!!」


「…違う、…全部、嬉しい。」


相沢遙のその一言に全員が胸を撫で下ろす。


「よかったー…いやさ、お前割と手先器用じゃん?」


「そーそー。チマチマしたこと好きそうだったもんな☆」


「一緒にいればそのくらいはわかるわよ。」


「付き合いが浅くてもな。こういうのは時間じゃない。」


「…ありがとう。」


そう呟いた相沢遙の瞳からは涙が溢れていた。突然のことにびっくりする。


「俺…今まで…感情、動いた経験が…あんまりなくて…けど、今…すごい嬉しい…んだと思う…。先輩たちを危険に晒したのに…こんな……ありがとう………すみませんでした……。」


…うん、ほら、やっぱり普通にいい奴なのかも。相沢遙は、嬉しくて泣ける人。…うん、やっぱりいい奴だよ。


「なーに言ってんだよ。ほら、ケーキ食べようぜ!」


「あ☆シャンパンタワー活用しちゃう!?」


「却下。茜、約束してた桜餅もちゃんとあるわよ。」


「…ケーキに桜餅…それはどうなのか?」


「ほらほら、主役2人は座って座って!!」


龍太に背中を押され、奥のソファへ座る。ケーキの上の蝋燭に火を灯し、皆が祝ってくれる。おいしいものを食べて、皆で騒いで、…誰ひとり欠けることなく今を楽しめる。ちょっと前まで絶望的だったのに、皆がいる…それだけでこんなに心は満たされるんだ。


私たちはひたすら騒いだ。笑って、笑いすぎて涙が出て、腹筋崩壊しそうになって…それでもまた笑って…。


そして相沢遙は言った。


「こんなこと言える立場じゃないと思うけど…俺、ここにいたい…。皆と一緒にいたいです…。」


…もちろん、首を横に振る者は誰ひとりいない。


私の中で『相沢遙』が『遙』に変わった瞬間だった。

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