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約束  作者: りっこ
第4章 名をもって
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じょうじょうしゃくりょう

「落とし前はきっちりつけてもらうわよ。」






彼女の実体のない髪がうねる。攻撃が始まった。


「・・・私には効かない。」


竜巻と化した空気が私を包み込む。でもそんなもの効きはしない。片手を上に掲げ空気の流れを止める。今の私にはそれができる。


『どう・・・して?私とあなたの力は同じはずじゃ・・・。』


「私の中に彼の名前はあるから。」


『・・・。』


名前を以てその者を制す。すべてのものには名前がある。それを知るのと知らないのとでは力の発現が異なる。


・・・なぜこんなことがわかるのか。それは、彼の過去を垣間見たから言えること。


ユウマは何人も人を殺した。その度に苦しみ、第三者に力を分けて自分を殺させようとしてきた。だが、すべて失敗に終わる。彼は一度も『自分』をさらけださなかったから。


私は・・・小さな頃に彼に会い、そして・・・約束したのだ。死にたい・・・そう願った彼を、殺してあげる、と。その代わり、本気で死にたいと思え・・・と言ったのだった。




「終わりにしよう・・・もう、いんだよ。」


目を閉じ、祈る。彼女の魂がユウマから解放されることを。憎しみでがんじがらめになった心を、愛情を。


『な・・・にを・・・』


徐々に薄くなる彼女の影。・・・あんなに怖い、敵わないと思っていた相手なのに、今では全くそうは思わない。恐怖の欠片さえ感じない。


「もう、いいんだ。あなたはあなたに帰って。」


もう一度強く強く願う。彼女の心が安らかでありますように。


すると今まで沈黙を守っていたユウマがぽつりと言った。それは彼女に聞こえているのか疑わしいほど、小さな声だった。


『あけみ・・・ごめん。ごめんね。ありがとう。』


その瞬間、あけみさんは強い光を放った。そして、完全に消えてしまった。


彼女の頬は涙でぬれていたけれど、どこかほっとしたような・・・つきものがとれたような晴れ晴れしい表情をしていた。


「・・・うっ・・・。」


相沢遙の体が傾ぐ。生まれた時から憑かれていたんだもん。体の一部がなくなったような感覚だろう。


「大丈夫?」


「・・・ばあちゃん、俺に、・・・ごめんねって・・・言った。」


支えようと近くに寄ると、彼の頬もまた、ぬれていた。・・・こいつも、つらかっただろうな。


「うん。」


「ばあちゃんの方が・・・ずっと辛い思いしてたのに・・・ずっと・・・ずっと好きだったのに・・・好きって認められずに・・・苦しんで・・・」


「・・・うん。」


お姉さんと一緒に河原に行ったあの日から、あけみさんの心の中にはユウマがいた。惹かれていると認識する前に、姉を目の前で殺され・・・ずっと認めることができずにいたんだろう。そんな苦しみから、やっと解放されたんだ。


「・・・先輩、俺、いろいろとすいませんでした・・・。」


「・・・あんたのせいじゃないじゃん。」


「そうだな。・・・お前も大変だったな。」


「・・・うん、ほん・・・と・・・って、あっ!?」


「・・・お前、存在忘れてただろ。」


いつのまにか会話に加わっていた人物・・・それは・・・。


「ひでーやつだな。」


「ほんとね。」


「罰ゲームする?何にしようかーw」


「僕たち存在感ないのかなー?」


・・・・・・・・・・・・。


嘘・・・、皆・・・!?


「無事だったの!?」


屋上には落ちていったはずの仲間が揃っていた。それも無傷のまま・・・。


「なんで・・・ってそんなことはどうでもっ・・・よかっったぁ~・・・!!!」


涙腺崩壊。勢い余ってともちんに抱き着く。・・・体、ちゃんとある・・・夢じゃない!!


「俺ら落ちた時に雅史が下から風起こしてくれたんだよ。バンジージャンプみたいでおもしろかったw」


「・・・あんた、あの状況でよくそんなこと思えたわね。」


「俺高いところ好きなんだよね~。」


「・・・うぷ、思い出すとだめだ。マジで怖かった・・・。」


「?僕も楽しかったけどな。」


悠斗と龍太はケロっとして笑い合っている。あの落ちるときのぞぞぞーってのがたまらない・・・とか、下からの風でぞわって体が浮くかんじいいよな・・・とか。・・・あの時の私のシリアスモードは一体・・・。


「ほんと・・・皆生きててよかった・・・。」


「なるようになるって言ったろ?」


・・・そういえば雅史に呼び出されたとき、なんとなく様子変だったような・・・って、あれ、まさか・・・


「あの時すでに暗示解けてたの!?」


「いや?なんとなくおかしいと思ってはいたけど。」


「私も思ってたわよ。でもなんか楽しかったし放っておいたら・・・まさかの事態になったけど。」


「・・・いや、それ、放っておかないでほしかった・・・。」


「俺全く気付かなかったー。」


「僕もー。」


「じゃあいつ解けたの?」


「私は落ちるとき。これまずいと思ったら雅史と目が合って・・・あれであんたも解けたんじゃない?」


「そうだな。つーか力使わなきゃ死ぬって思ったら馬鹿力が出た。俺は最後まで落とされなかったけど・・。」


「マジやばかったなー。俺なんで落ちてんだろって思いながらさ、これ死ぬ?あ、そういや雅史風使えるじゃんね、って思ったら全部思い出した。」


「僕風に浮かんでる時にだったよ。それにしてもすごいよね、風を操るなんて!映画みたい!」


「あ、そっか、龍太は知らなかったっけ。」


「??何をー??」


「いや、あとで説明するよ。とりあえず今は・・・ってどこ行くんだよ?」


玉木のその声に私は後ろを振り返った。・・・相沢遙は屋内へ通ずるドアをくぐるところだった。


声をかけられたことに驚きの表情を見せたが、またいつもどおりの何考えてるのかわからない・・・つまり無表情になって答えた。


「・・・ここにいる理由がなくなったから。」


一言だけ残して、また踵を返そうとした時ーーーー。


「「「「「ちょっと待った」」」」」


・・・私もびっくりしたよ。皆声を揃えて相沢遙を止めに入った。


「おいおい、そりゃないんじゃないのー?」


「そうだよ、俺たちがこのまま帰すわけないだろ?」


「そうだそうだー!!」


「・・・帰れると思うのか?」


「落とし前はきっちりつけてもらうわよ。」


・・・おいおい、みんな、どうしちゃったの??いや、それだけのことしたのは事実だけど、相沢遙も取り憑かれてたわけだし・・・じょうじょうしゃくりょうのよちはあるんじゃ・・・?


なんておろおろしてた私と相変わらず無表情な相沢遙を除く5人が、風の抜きぬける屋上でにやりと笑った。

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