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約束  作者: りっこ
第4章 名をもって
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消える仲間、湧き上がる怒り

「あーあ…だから言ったのに。」







<おーい、明日忘れんなよ!朝10時、部室、だからな!>


<今シェフが桜餅作ってくれてます。寝坊したらこれ私たちで食べるからね?>


<あっかねー、明日ちゃんと起きろよ?起きなかったらちゅうしちゃうぞw>


<茜ちゃん、ちゃんと来てよねー?僕待ってるから!>


<お前来なかったら面倒なことになるから来い。>




………何、このメールラッシュ…。

玉木が言った活動日前日の夜、私の携帯はひっきりなしに鳴っていた。


皆律儀だなぁ…本当にメールしてくるんだもん。あの雅史までもが。

久しぶりだからってテンション高すぎじゃないかなー…。これ、もし寝坊したら大変なことになりそうだな…。…ちゃんと起きなきゃ。






…とか言っても寝坊する自分どんだけー…!?


気づけば約束の時間15分前。どんなに頑張っても学校着くのは10時半過ぎちゃう!!

顔を洗って歯磨きして着替えて即家を飛び出す。寝癖とか放置。


<すみません!!今家出ました!!なので遅れます((+_+))>


一斉送信する。きっと文句のメールの一つも来るだろうなー…覚悟しとこう。


…そう思っていたのに、学校に着くまで受信音は一度も鳴らなかった。構えすぎてたのかな。意外だったや。まぁ、もしかしたら他の人たちも寝坊してるかもしれないしね。うっかり私が一番最初に到着したんだったりして。


…なんて楽天的に考えていた。


どうして忘れることができたんだろう。あの時、相沢遙は忠告してくれていたのに。




部室棟へ歩いていく。


ゾクリ………


一気に寒気が体を駆け抜ける。この気配、間違えようがない。…相沢遙。どうして…?なんで…?


「あーあ…だから言ったのに。」


振り向くことができない。後ろにいる。わかってる。だけど体がいうことを聞いてくれない。


『出てきなさい。』


またあの女の人の声…。ユウマに向けるその声は相変わらずとても冷たいもので…何回聞いても慣れない。


「…早く出て来た方がいいんじゃないかな?じゃないと…先輩の大事なものが壊れちゃうよ?」


「…なに…言って……?」


「こっから見えるかな?屋上。」


屋上…?屋上というワードで思い出すのは悪いこと。以前霊に殺されそうになった…まさか…!?

体の自由を奪われていたのが嘘のように、私は反射的に屋上を見た。嫌な予感が恐怖に勝ったのはいいけど…視線の先には信じがたい光景が広がっていた。


屋上のフェンス、その外側に一定間隔を空けて並ぶ人影は、私の大事な人たち…。


「っ!?」


走り出していた。無我夢中に。廊下を全速力で走り抜け、階段を駆け上がり、荒くなる息なんか気にしていられなかった。いやだ、いやだ、いやだ…!!


バァーーーーン!!!


屋上の扉を力任せに開き、外へ出る。


「ちょ、みんな!?何やってんの!?危ないよ!?」


「………………」


大声でどなるように発したその言葉も、皆には届かない。誰も反応してくれない。これって…まさか…。


「無駄だよ。今、操り人形だから。先輩の声は聞こえない。」


「…やめて!やめてよ!?なんで…なんでこんな…用があるのは私たちにでしょう!?どうして皆を巻き込むの!?」


『まだ…出てくる気になれないの?』


「お願い!!皆を解放して!!ユウマなら私が何とかするから!!お願い…皆を離して!!」


『そう…出てこないの…。じゃあ、こうしたら出てくる気になる…?』



そう言うと、相沢遙の後ろでにっこりとほほ笑んだ。笑ってるはずなのに、その顔は今まで見たどんなものより怖いと感じた。


『…一人目。』


その言葉が聞こえたと同時に、風が吹いた。嘘…いやだ、いやだ!!フェンスを振り返ると、ともちんの体が揺らぐところだった。


「ともちんっ!?…っ!?いやーーーーーーーっ!!!!!!!」


視界からともちんがいなくなる。落ち…た…ともちんが落ちてしまった…?


『ほら、一人目が犠牲になってしまった。まだ出る気になれない…?』


「…めて…やめて…お願い…もう、やめて……っ!!」


『そう…。じゃあ……二人目。』


その言葉の後に龍太の体がふわりと揺れて、消えていく。


「っっっ!!!やめてーーーーー!!!」


体の奥の奥…自分で普段意識したことがないようなところが熱くなった。内臓が焼けるような…感じたことのない熱は体中に広がっていく。



バチバチッッッ!!!


スパーク音が弾けた…その時、私の前に見知った姿が現れた。


『…ふふ、やっとまた会えた。』


女の人と対峙するユウマの顔はとても悲しげで、どこか痛いのを我慢しているような…そんな微妙な顔をしていた。けれど、そんなこと、私にとってはどうでもいい。


すぐさまフェンスに駆け寄る。下を確認しようにも、フェンスが邪魔で見えない。震える体を抱きしめながら目の前の玉木に声をかける。


「お願い…こっちに、こっちに戻って…。」


…やっぱり声は届かない。雅史も悠斗も、返事はしてくれなかった。


『さあ…決着をつけましょう。』


『…無理だよ。俺は君に手を出せない。』


『いいえ、無理じゃないわ。私に力をくれたように、その子にも直接力を分ければいいのよ。』


『…それはできない。今それをしてしまえば…茜は壊れてしま…』


『私みたいに?』


ユウマは言葉を詰まらせ、押し黙ってしまう。一体この二人は何の話をしているんだろう?…そんなことはどうでもいいんだって。


「助けてよ。ユウマ出てきたんだから、もういいでしょ?お願いだから…皆を助けて…。」


涙でぐしゃぐしゃになった顔を相沢遙の背後に向ける。もう恐怖は感じない。そんなもの感じてる余裕なんてない。


『…三人目。』


「!?!?」


次は悠斗が視界から消える。


「なんで!?どうして!?」


『…ほらほら、あなたの大事な子が泣いているわ。まだ決断できないのかしら?』


『………っ』


『…四人目。』


「いやーーーーーーっ!!!」


私の目の前で…手の届く距離にいた玉木までも、落ちて行ってしまった。


「ユウマ…うぅ…ユウマ!!これ以上私の大事な人を傷つけないで!!」


『…茜…』


「望み通りやってやる。ユウマ、力、ちょうだい。皆の敵、とってやる…!!」


何がなんだかわからないくらいに、ふつふつと湧き上がる怒り。それを止めることは、もうできなかった。終わりにしてやる。私のせいで、皆、犠牲になってしまったんだ。私はどうなってもいい。終わりにしてやるんだ。

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