消える仲間、湧き上がる怒り
「あーあ…だから言ったのに。」
<おーい、明日忘れんなよ!朝10時、部室、だからな!>
<今シェフが桜餅作ってくれてます。寝坊したらこれ私たちで食べるからね?>
<あっかねー、明日ちゃんと起きろよ?起きなかったらちゅうしちゃうぞw>
<茜ちゃん、ちゃんと来てよねー?僕待ってるから!>
<お前来なかったら面倒なことになるから来い。>
………何、このメールラッシュ…。
玉木が言った活動日前日の夜、私の携帯はひっきりなしに鳴っていた。
皆律儀だなぁ…本当にメールしてくるんだもん。あの雅史までもが。
久しぶりだからってテンション高すぎじゃないかなー…。これ、もし寝坊したら大変なことになりそうだな…。…ちゃんと起きなきゃ。
…とか言っても寝坊する自分どんだけー…!?
気づけば約束の時間15分前。どんなに頑張っても学校着くのは10時半過ぎちゃう!!
顔を洗って歯磨きして着替えて即家を飛び出す。寝癖とか放置。
<すみません!!今家出ました!!なので遅れます((+_+))>
一斉送信する。きっと文句のメールの一つも来るだろうなー…覚悟しとこう。
…そう思っていたのに、学校に着くまで受信音は一度も鳴らなかった。構えすぎてたのかな。意外だったや。まぁ、もしかしたら他の人たちも寝坊してるかもしれないしね。うっかり私が一番最初に到着したんだったりして。
…なんて楽天的に考えていた。
どうして忘れることができたんだろう。あの時、相沢遙は忠告してくれていたのに。
部室棟へ歩いていく。
ゾクリ………
一気に寒気が体を駆け抜ける。この気配、間違えようがない。…相沢遙。どうして…?なんで…?
「あーあ…だから言ったのに。」
振り向くことができない。後ろにいる。わかってる。だけど体がいうことを聞いてくれない。
『出てきなさい。』
またあの女の人の声…。ユウマに向けるその声は相変わらずとても冷たいもので…何回聞いても慣れない。
「…早く出て来た方がいいんじゃないかな?じゃないと…先輩の大事なものが壊れちゃうよ?」
「…なに…言って……?」
「こっから見えるかな?屋上。」
屋上…?屋上というワードで思い出すのは悪いこと。以前霊に殺されそうになった…まさか…!?
体の自由を奪われていたのが嘘のように、私は反射的に屋上を見た。嫌な予感が恐怖に勝ったのはいいけど…視線の先には信じがたい光景が広がっていた。
屋上のフェンス、その外側に一定間隔を空けて並ぶ人影は、私の大事な人たち…。
「っ!?」
走り出していた。無我夢中に。廊下を全速力で走り抜け、階段を駆け上がり、荒くなる息なんか気にしていられなかった。いやだ、いやだ、いやだ…!!
バァーーーーン!!!
屋上の扉を力任せに開き、外へ出る。
「ちょ、みんな!?何やってんの!?危ないよ!?」
「………………」
大声でどなるように発したその言葉も、皆には届かない。誰も反応してくれない。これって…まさか…。
「無駄だよ。今、操り人形だから。先輩の声は聞こえない。」
「…やめて!やめてよ!?なんで…なんでこんな…用があるのは私たちにでしょう!?どうして皆を巻き込むの!?」
『まだ…出てくる気になれないの?』
「お願い!!皆を解放して!!ユウマなら私が何とかするから!!お願い…皆を離して!!」
『そう…出てこないの…。じゃあ、こうしたら出てくる気になる…?』
そう言うと、相沢遙の後ろでにっこりとほほ笑んだ。笑ってるはずなのに、その顔は今まで見たどんなものより怖いと感じた。
『…一人目。』
その言葉が聞こえたと同時に、風が吹いた。嘘…いやだ、いやだ!!フェンスを振り返ると、ともちんの体が揺らぐところだった。
「ともちんっ!?…っ!?いやーーーーーーーっ!!!!!!!」
視界からともちんがいなくなる。落ち…た…ともちんが落ちてしまった…?
『ほら、一人目が犠牲になってしまった。まだ出る気になれない…?』
「…めて…やめて…お願い…もう、やめて……っ!!」
『そう…。じゃあ……二人目。』
その言葉の後に龍太の体がふわりと揺れて、消えていく。
「っっっ!!!やめてーーーーー!!!」
体の奥の奥…自分で普段意識したことがないようなところが熱くなった。内臓が焼けるような…感じたことのない熱は体中に広がっていく。
バチバチッッッ!!!
スパーク音が弾けた…その時、私の前に見知った姿が現れた。
『…ふふ、やっとまた会えた。』
女の人と対峙するユウマの顔はとても悲しげで、どこか痛いのを我慢しているような…そんな微妙な顔をしていた。けれど、そんなこと、私にとってはどうでもいい。
すぐさまフェンスに駆け寄る。下を確認しようにも、フェンスが邪魔で見えない。震える体を抱きしめながら目の前の玉木に声をかける。
「お願い…こっちに、こっちに戻って…。」
…やっぱり声は届かない。雅史も悠斗も、返事はしてくれなかった。
『さあ…決着をつけましょう。』
『…無理だよ。俺は君に手を出せない。』
『いいえ、無理じゃないわ。私に力をくれたように、その子にも直接力を分ければいいのよ。』
『…それはできない。今それをしてしまえば…茜は壊れてしま…』
『私みたいに?』
ユウマは言葉を詰まらせ、押し黙ってしまう。一体この二人は何の話をしているんだろう?…そんなことはどうでもいいんだって。
「助けてよ。ユウマ出てきたんだから、もういいでしょ?お願いだから…皆を助けて…。」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を相沢遙の背後に向ける。もう恐怖は感じない。そんなもの感じてる余裕なんてない。
『…三人目。』
「!?!?」
次は悠斗が視界から消える。
「なんで!?どうして!?」
『…ほらほら、あなたの大事な子が泣いているわ。まだ決断できないのかしら?』
『………っ』
『…四人目。』
「いやーーーーーーっ!!!」
私の目の前で…手の届く距離にいた玉木までも、落ちて行ってしまった。
「ユウマ…うぅ…ユウマ!!これ以上私の大事な人を傷つけないで!!」
『…茜…』
「望み通りやってやる。ユウマ、力、ちょうだい。皆の敵、とってやる…!!」
何がなんだかわからないくらいに、ふつふつと湧き上がる怒り。それを止めることは、もうできなかった。終わりにしてやる。私のせいで、皆、犠牲になってしまったんだ。私はどうなってもいい。終わりにしてやるんだ。