同類
「あなただけじゃないってこと。」
次の日、しっかり睡眠がとれなかったためにぼーっとする頭に喝をいれながら登校する。あー…緊張する。昨日したばっかの決意が既に砕けそう。心臓が口から出そうって…こういうことなのか。
いつも乗る電車よりも4本も早い時間なのに…駅についてしまった。こんなことあるもんなんだなー。早起きって気持ちいいって誰かが言ってたけど、…全く気持ちくないわ。ため息しか出ない。
…完璧びびっちゃってるよ~…戦う前に気持ちで負けてる自分が悔しい。訳わからないことばかりだし、ユウマは出てこないし、解決策が浮かばない…。はぁ~………だからこそ、相沢遥に対峙しなくちゃいけないんだよね…気ぃ重いなー…。
『………ね………あ…ね………』
やりたくないことをねちねちと考え込む。行動に移すまでが長いんだよね。ちゃちゃっとやってしまえばいいのに…いや、わかっちゃいるんですよ。ええ。
『茜!!』
プァァアアアーーーーーッッッ!!!
…目の前を快速が走り抜ける。風が私の(今日もとかしてない)髪を揺らし、視界を悪くする。黒い線の合間から、何度か目にしたことのある姿がぼんやりと浮かんだ。…私の待ち望んだ人。
「ユウマ…。」
何度も呼びかけた。それでも姿が見えることはなく、今回は無理かもしれないとまで思っていた。切望していた相手がそこにいる。
『…ごめんね。今回、俺は力になれないよ…。あの人には俺の力は使えない…。』
「どういうこと?また使いたくないとか…そういう話?」
ユウマは静かに首を振った。伏せられた目はどこか悲しそうで…私は黙って聞くことしかできない。
『通用しないんだ…。彼女が使う力も、俺の力だから…。彼女の力は今の俺を上回ってる。だから今回茜はとても無防備になってしまう…。』
「…ともちんたちの記憶がすり替えられてるの。どうしたら皆元に戻る?」
『彼女の目的は間違いなく“俺の消滅”だと思う。だけど…今消えるわけにはいかないんだ。』
「じゃあ、どうしたらいいの?ユウマの力がなくて、どうやってあんなのに対抗すれば…。」
成す術がない…ってこと?殺されるのを待つだけ?ちょっと待ってよ、私まだ死にたくないって!!
愕然とする。ユウマに食ってかかろうと息を吸い込んだ時、突然彼が苦しみ出した。
「ちょ、ユウマ!?大丈夫!?」
『…じ、時間切れ…ごめ…あか…ね……。』
「うそっ!?ユウマ!?ま、まだ何も解決してないよ!?話の途中だっつの!!」
苦しみで歪む顔を見てもこんなセリフしか出てこないくらいに、私だって切羽詰ってるのだ。勝手に出てきて絶望の言葉を残して消えたユウマ…。私にどうしろと??
「…やっぱり。」
その時後ろから声が聞こえた。未だに聞き慣れないが…その声の主はわかる。
「相沢遥…!!」
「ひどい、先輩。入学したら一緒に登校しようねって約束したのに。」
「あんたが捏造した記憶じゃそうなってるわけ?バカバカしい。」
お、なんかいいかんじ。怒りでさっきまであったこいつに対する恐怖心が払拭されてる。よしよし、言いたいこと言ってやれ。
「大体ねー!なんなんだ!?彼氏!?植え付けるならもっとマシな記憶にしろっての!!冗談じゃないっ!!」
能面みたいな顔…何を言っても表情の変わらない相沢遥に、私のボルテージは上がっていく。
「あんた、目的は何?友達の記憶まで変えちゃって何がしたいわけ!?私を殺したいんじゃないの!?なんでそんなまだるっこしいことすんの!?男ならなーはっきりしやがれ(ってんだい、ちきしょーめ!!)……。」
声にならなかった言葉が胸につまる。鳥肌が全身を覆う。脂汗が吹き出る。この感覚…やばい、言いすぎたかも。相沢遥が本気になっちゃった…。まだ対策も練ってないのに、正面衝突してしまった…マジでか。短絡思考な自分を恨む。怒りに任せて物を言っていい相手ではなかったのに。
「…そう。目的はあなたを消し去ること。正確に言えばあなたの中にいるもの。俺は殺さなくてもいいと思ってるんだけど…彼女が許さないから。」
「彼女って…共犯がいるの!?」
「…ほんとに何も知らないんだね、先輩。」
「知らないって何…が……。」
黒いものがうっすらと相沢遥を包んだ…と思ったら、ありとあらゆる悲しみ、憎しみ、妬み、そういう負の感情が目に見えるような、そんな冷たい目をした女の人が彼の後ろに現れた。…この人だ…私を見ていたのは。
「あんたも…憑かれてるの…?」
掠れた声で問う。この状況で発声できる自分が誇らしい。恐怖に立ち向かえている自分を嬉しく思う反面、即座に逃げ出したい気持ちもある。もっとも今逃げ出したところで私の命は狩られるだろうけど。
「そう。霊と共存してるのは、あなただけじゃないってこと。」
そう言えばユウマは彼女、と言っていた。龍太の時と違って意識も乗っ取られてるわけじゃないのか(というより私と同じか)。…よくもまあそんなことができるもんだ。そんな見るからに怖い人がずっと自分の中にいると思うと…ぞっとする。ユウマが普通の人でよかった…。なんて的はずれなことを考えていなければここに立っていられない。
「気付いたらこの人が憑いてたから、それに協力してるだけなんだけど。あなたもそうだったんでしょ?お互い大変だね。」
世間話をするかのような相沢遥の態度と、今も禍々しさ全開の女の人とのギャップが激しすぎて、リアクションに困る。怖いんだけど…なんか、多分、今殺されることはない…気がする。
「なんで、ユウマなの?」
思わず出たその一言を私は激しく後悔することになった…。